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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第364話「国境の薬草」

セラフィス聖王国の辺境にある教区の診療所で、修道医のミレーヌは、棚に並んだ薬草の瓶を点検していた。例年であれば、この冬の時期は熱病の流行に備えるための「青蓮草」が深刻に不足し、高値で取引されるのが常だった。

「今年もまた、多くの患者を断らねえければならないかと思っていましたが……」

若い助手が見守る中、ミレーヌは瓶の中にぎっしりと詰まった乾燥薬草を取り出した。

「不思議ね。今年は例年の半分の値で、しかも倍の量がレグナスの商人から持ち込まれたわ」

「レグナスで大豊作だったのでしょうか?」

「あそこは山が深いから、薬草の採取は命がけのはずよ。急に量が増えるわけがないわ」

ミレーヌは薬草を鼻に近づけ、特有の苦い匂いを確認した。品質は極めて高い。後で調べてみると、レグナス王国が国境付近の山林で「遭難者を救助するための防風小屋」を数十箇所も増設したことが原因だと分かった。政府はただ、猟師や旅人の安全のために小屋を建てたと言い張っている。

だが、その小屋が出来たおかげで、現地に住む薬草採りたちが冬の寒さを恐れることなく、安全に山へ入れるようになったのだ。結果として、命がけだった採取作業がただの日常の仕事に変わり、薬草の市場価格が暴落した。

それにより、隣国であるセラフィスの辺境民の命が救われている。レグナスは兵を出すことも、聖王国に恩を売ることもせず、ただ自国の山を少し整備しただけで、他国の民の心を静かに掴み取っていた。

「聖下のお導きというよりは……もっと地味で、恐ろしいほど優しい誰かの仕事ね」

ミレーヌは祈りを捧げることも忘れ、手帳の数字を見つめていた。

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