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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第361話「関所の算盤」

レグナス王国の北方に位置する山岳関所の税務官であるレオンは、朝から算盤の珠を弾き続けていた。手元に並ぶのは、ここ半月の間に山を越えてきたドラグナール帝国の商隊の通関記録である。

「妙だな。羊毛の輸入量が、先月の同じ時期に比べてきれいに一五%減っている」

レオンが呟くと、隣で書類を整理していた部下が顔を上げた。

「ドラグナール側で政変でもありましたか?」

「いや、あちらの市場では羊毛の価格は安定している。出荷自体が減っているわけじゃない。ただ、我が国のこの関所を通る量だけが、まるであらかじめ測ったかのように正確に減っているんだ。それも、引き下げられたはずの減税期間中だというのに」

レオンは算盤の珠を一度引き、再び弾き直した。数字に間違いはない。減税という呼び水がありながら、商流が細くなっている。理由を探るべく他の品目の帳簿をめくると、羊毛の減少と完全に同量だけ、隣の谷にある民間の小さな私道を経由した「木材」の流通量が増加していた。

木材の運搬には、羊毛よりも多くの人手と荷馬車が必要となる。つまり、ドラグナールの商人たちは、税の安い関所を避けてわざわざ手間の how 借る険しい私道を選び、そこでレグナスの地元民を大量に雇い入れて運ばせている形になっていた。

「……誰かが裏で、商人の足取りを誘導しているな」

レオンは冷や汗を拭った。関税の数字をほんのわずかに操作し、特定の私道の使用料を調整することで、他国の商人の動きを完全に支配している。彼らは自らの意志で動いているつもりだろうが、実際は精緻な盤面の上を歩かされているに過ぎない。レオンは帳簿の余白を見つめ、底知れぬ組織の影を感じていた。

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