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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第358話「宿場の噂」

ドラグナール帝国の国境近くにある宿場町の酒場で、二人の行商人が声を潜めて話していた。彼らの間には、安物の麦酒の杯が置かれている。

「聞いたか? 西の街道の通行税が、来月から引き下げられるらしい」

「へえ、どこの国だ? この不景気に珍しいこともあるもんだ」

「レグナスさ。それも、我が国の商人がよく使う特定の品目に限って、税をまけるんだとよ」

もう一人の商人は、杯を弄びながら眉をひそめた。

「美味い話だが、出来すぎているな。レグナスの役人がそんなに親切なわけがない。何か裏があるんじゃないか?」

「裏も何も、俺たちにとっては儲かるだけだろ。現に、仲間の連中はみんな、次の交易からルートをレグナス経由に変えるって息巻いてるぜ」

商人は黙って頷いたが、心の中の疑念は消えなかった。多くの商人がルートを変えれば、これまで使われていた他国の街道は廃れ、その周辺の宿場は干上がることになる。それは、刃を交えることなく、他国の経済的な領土を削り取っていく行為に等しかった。

レグナスという国は、いつからこれほど老獪な真似ができるようになったのだろうか。かつては四大国の狭間で喘ぐ、ただの退屈な国だったはずだ。それが今や、商人たちの欲を巧みに操り、大陸の物流の形を根底から変えようとしている。

「まあ、儲かるうちは乗っかっておくさ」

商人は麦酒を飲み干した。誰もがその利益に飛びつく。しかし、それが誰の掌の上で躍らされている結果なのか、知る者はこの酒場には一人もいなかった。

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