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最強だった俺は、もう戦わないと決めた ―辺境小国の宰相として大陸を制す―  作者: 竜太郎


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第353話「兵舎の雑談」

レグナス王国の国境守備隊の詰所では、夜回りを終えた兵士たちが暖炉の周りに集まっていた。鍋から立ち上るスープの湯気が、冷え切った室内をわずかに温めている。

「おい、今週の演習、予定が変わったのを知っているか?」

一人の若い兵士が、木匙を動かしながら周囲に問いかけた。

「ああ、南の平原での模擬戦が中止になって、代わりに東の森での行軍訓練になったんだろ。あんな藪の中を歩かせるなんて、上は何を考えているんだ」

先輩の兵士が不機嫌そうに答えた。

「それだけじゃない。行軍のルートが妙に細かく指定されているんだ。この切り株の角を曲がれとか、あの沢沿いを進めとか。まるで、特定の場所を何度も踏み固めさせているみたいだ」

「道でも作っているつもりかよ」

笑い声が上がった。しかし、その場にいた古参の分隊長だけは笑わなかった。彼は、その指定されたルートが、かつて隣国が偵察隊を送り込んできた隠れ道と完全に一致していることに気づいていた。兵士たちが何度もそこを歩けば、地面には深い足跡が残り、木々の枝が払われ、あたかも「日常的に大規模な部隊が巡回している場所」のように見える。

他国の偵察員がそれを見れば、そこから侵入することを躊躇うだろう。血を流すことも、大層な陣地を築くこともなく、ただ兵士たちの日常の訓練を利用して、国境の隙間を塞いでいる。

「スープが冷めるぞ。さっさと食え」

分隊長はそう言って話を打ち切った。誰がその命令を下したのかは知らないが、その細工の巧妙さに、彼は静かな寒気を覚えていた。

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