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第345話「夜の宿場で」
「レグナスは最近、落ち着いてるらしいな」
旅人の男が言ったのは、宿場の食堂だった。
「落ち着いてる?」
隣に座った行商人の女が聞き返した。
「戦がない。内乱もない。税が高くなった話も聞かない」
「それは単純にいいことでは」
「普通の国ならそうだ。ただ……」
男は杯を置いた。
「三年前、ヴァルディアがあそこに兵を送ったんだ」
「知ってる。撤退したんでしょ」
「撤退した。それも一戦もせずに」
「そういう交渉があったんでしょ」
「なかったらしいんだよな」
女は少し眉をひそめた。
「じゃあ、なんで撤退した」
「わからないから、噂になってる」
「どんな噂」
「補給が壊滅したとか、内部が混乱したとか。でも誰が何をしたのかは、誰も言えない」
女は少し黙った。
「そういう国か、レグナスは」
「そういう国になった」
男は残りの酒を飲み干した。




