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第344話「名前を呼ばない話」
「あれ、誰の発案なんだろうな」
兵士のコートが詰所で言った。
「何が」
「道だよ。東の街道。あそこ、去年から格段に良くなっただろ」
「ああ」
「誰かが予算を動かしたはずだろ。あんな改修、一地方の話じゃない」
同僚のベルムが少し考えた。
「宰相府じゃないか」
「宰相府が街道の管理をするのか?」
「するかどうかじゃなくて、予算を持ってきたんだろ。誰かが誰かに頼んで、誰かが動かした」
「誰かが、誰かが、誰かが」
コートは繰り返した。
「どこにも名前が出てこないな」
「名前が出てくるようなやり方はしないんだろ」
「なんで」
「……さあ」
二人とも、それ以上は言わなかった。
詰所に静寂が戻った。外で別の兵士が何か叫んでいる。
コートは天井を見上げた。
道は確かに良くなった。でも、誰がやったのかは誰も知らない。そういう仕事をする誰かが、どこかにいる。




