335/442
第337話「帰路の地図」
リオは歩きながら手帳を開いていた。
グランデル谷集落。人口、約四十名。主な生業は木材と薬草。街道からの距離、徒歩で半日強。
数字にするとあの場所はずいぶん小さく見える。でも実際に行ってみると、そこには思っていたよりずっと多くのものがあった。
「リオ、疲れてるなら乗れよ」
先輩係官のヴェルムが荷馬車の脇から声をかけた。
「いえ、大丈夫です。少し考えごとをしていました」
何を考えていたか、うまく言葉にならない。
あの村の村長が言っていた。若い者が出て行かなくなった、と。
それは良いことなのか悪いことなのか、リオにはまだわからない。村が豊かになったのか。外の世界との縁が薄れただけなのか。
どちらとも、報告書には書けない。書けるのは数字だけだ。
人口四十。街道から半日。それだけ。
手帳を閉じて、リオは前を見た。
街道の先に宿場の屋根が見えてきた。今夜ここで休んで、明日の朝には局に戻る。帳面に数字を書き入れて、また次の仕事が始まる。
それでいい。
でも今夜だけは、数字にならない部分のことを少し考えていようと思った。
ヴェルムが大きな欠伸をした。護衛の兵が水筒を回している。リオもそれを受け取って、一口飲んだ。




