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第336話「夜の街道」
夜の街道を、一台の荷馬車が走っていた。
急ぎの荷だった。
御者は老人で、手綱を握り続けている。
橋が見えてきた。
ガルスの小屋に灯りがついていた。
「夜間通行、いいか」
「どうぞ」
ガルスは帳面を開いた。
夜間通行の記録をつける。
時刻。
荷馬車一台。
老御者。
「急ぎですか」
「薬だ」
老人は短く言った。
「次の町の病人に届ける」
ガルスは何も言わなかった。
馬車が橋を渡った。
蹄の音が遠くなる。
夜の街道に、また静けさが戻った。
ガルスは帳面を見た。
夜間通行・荷馬車・急送・薬。
それだけ書いた。
橋を渡った理由まで書く欄はない。
でも今日は余白に書いた。
「病人への薬、夜間急送」
誰も読まないかもしれない。
でも今夜この橋を渡った荷馬車には、そういう理由があった。
それを残しておきたかった。




