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第324話「帳面の余白」
ガルスは夕方になると帳面を閉じる。
今日の通行者数を書き終えたら、それで仕事は終わりだった。
だが最近、閉じるのが少し遅くなっていた。
余白が気になるようになったからだ。
帳面には数字しかない。
何人渡ったか。
どの時間帯に多かったか。
荷馬車が何台通ったか。
それだけだ。
でも今日、荷馬車の御者が言った言葉が頭に残っていた。
「先週の雨で北の坂道が崩れてる。遠回りしてきた」
ガルスは帳面を見た。
先週の数字が少し少ない。
理由がある。
でも帳面には理由を書く欄がない。
少し迷って、余白に小さく書いた。
「北道・崩落・遠回り多し」
誰かが読むかどうかは分からない。
役に立つかどうかも分からない。
ただ、数字だけでは伝わらないことがある気がした。
橋の上を風が渡っていった。
ガルスは帳面を閉じて、小屋の戸を引いた。




