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第321話「煙の向こうの顔」
木々が開けた。
集落があった。
大きくはない。
茅葺きの家が十数軒、緩やかな斜面に沿って並んでいる。
子供が一人、こちらを見て走って消えた。
リオは足を止めた。
しばらくして、老人が一人出てきた。
警戒しているわけでもなかった。
ただ、静かに立っていた。
先輩係官が一歩前に出る。
「共同街道局から参りました。道の調査です」
老人は少し間を置いた。
「街道局……」
聞いたことはあるらしい。
見たことはなかったのだろう。
「ここへ来た役人は、初めてですか」
「来たことがあったかな」
老人は首を傾けた。
「覚えていない」
それが答えだった。
リオは手帳を開く。
書くことはたくさんあった。
家の数。
井戸の位置。
道の傷み具合。
だが最初に書いたのは、老人の顔だった。
地図に載っていなかった場所に、ちゃんと人がいた。
それだけを、まず記録したかった。




