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第316話「橋の向こうの灯り」
■橋の先の宿
夜。
宿の食堂に、見慣れない旅人が座っていた。
遠くから来たらしい。
荷物が多く、靴が傷んでいる。
主人は湯を出しながら、さりげなく聞いた。
「どちらから」
「南の街道から」
旅人は短く答えた。
「橋ができたと聞いたので」
主人は少し驚いた。
そんな遠くまで噂が届いていたのか。
「もう一年以上経ちます」
「ここが終点ですか」
「いえ」
主人は答えた。
「この先にも道がある」
旅人は少し目を細めた。
「それは知らなかった」
食事が運ばれてくる。
旅人は黙って食べ始めた。
主人は帳場へ戻りながら考えた。
橋の噂が遠くまで届いている。
橋の先の道は、まだ知られていない。
知られていないということは、まだ広がる余地があるということだった。
従業員が聞く。
「何かありましたか」
「いや」
主人は帳簿を開いた。
「客が来た、それだけだ」
■最後
噂は人より遅い。
だが人より遠くまで届く。
(次話へ)




