304/442
第305話:谷の向こう
■共同街道局
朝。
薄い霧が窓の外を覆っていた。
共同街道局の執務室では、数人の係官が新しい報告書を囲んでいた。
昨日見つかったグランデル谷集落。
記録の少ない小さな村。
若い係官リオは地図を広げる。
谷。
山道。
川。
記載は少ない。
「補給路が一本しかありません」
先輩係官が頷いた。
「雪が深くなれば孤立するな」
机の上へ静寂が落ちる。
別に珍しい話ではない。
大陸にはそういう場所がまだ多く残っている。
昼。
現地調査隊の編成案が作られる。
大げさなものではない。
文官二名。
護衛数名。
補給担当一名。
それだけだった。
「急ぎますか」
リオが聞く。
先輩係官は少し考えた。
「急ぐ」
一拍。
「だが慌てない」
窓の外では街道を荷馬車が進んでいた。
その車輪の音が、静かに執務室へ届いている。
■最後
地図の上では小さな点だった。
だが、その向こうにも人は暮らしていた。
(次話へ)




