第27話:距離
三日目。
平原には、再び静寂が戻っていた。
両軍は向き合っている。
だが。
昨日とは違う。
張り詰めた緊張はない。
代わりにあるのは――
“理解”。
「……来ると思うか?」
バルガスが問う。
「来ない」
即答する。
「意味がない」
すでに、結果は出ている。
無理に続ければ、損害が出る。
それは、あちらもわかっている。
その時だった。
ヴァルハイト軍。
中央から、一人が前に出る。
昨日の男。
「……来たな」
静かに呟く。
距離を保ったまま、止まる。
「これで終わりだ」
男が言う。
「我々の敗北でいい」
はっきりとした言葉。
「妥当だな」
短く返す。
「……だが」
一拍。
「一つ、確認したい」
「何だ」
男の視線が、真っ直ぐに向く。
「なぜ、潰さなかった」
静かな問い。
「できただろう」
「昨日の時点で」
沈黙。
確かに。
やろうと思えばできた。
だが。
「必要がない」
それだけを答える。
「これは戦じゃない」
「確認だ」
「なら」
「勝てばいい」
静かな声。
感情はない。
「……なるほど」
男は、小さく息を吐く。
「合理的だ」
「そして」
「危険だ」
はっきりと言った。
「貴国は、小国の枠に収まらない」
「放置すれば、いずれ脅威になる」
バルガスが、わずかに動く。
だが。
「だが」
男は続ける。
「今は」
「敵にするべきではない」
結論。
「不干渉とする」
「互いに」
静かな宣言。
「……賢明だな」
短く答える。
「ただし」
一拍。
「次はない」
男が言う。
「もし、貴国が拡大を始めれば」
「我々は止める」
「構わない」
即答する。
「その時は」
「また考える」
沈黙。
そして。
「……いいだろう」
男は頷いた。
「覚えておく」
「宰相カイン」
その言葉を残し。
背を向ける。
ヴァルハイト軍も、静かに動き出す。
撤退。
三日間の戦は、終わった。
「……終わったな」
バルガスが息を吐く。
「ああ」
短く答える。
中規模国家。
強い。
だが。
越えられない壁ではない。
それが、証明された。
「……次はどうする」
「決まっている」
一歩、歩き出す。
「まとめる」
「周辺を」
小国を。
すべて。
戦は、次の段階へ進む。




