第25話:一日目
平原は、静かだった。
風が流れ、草が揺れる。
その中に。
二つの軍が向き合っていた。
レグナス王国、千。
ヴァルハイト連合、千。
数は同じ。
だが。
空気が違う。
「……なんだ、あれは」
バルガスが低く呟く。
整っている。
陣形が。
動きが。
無駄がない。
「中規模国家だ」
静かに答える。
「個々が完成している」
「崩れない」
小国とは違う。
積み上げてきたものが違う。
「……厄介だな」
「ああ」
だが。
「問題ない」
繰り返す。
「始まるぞ」
合図が上がる。
戦が、始まる。
ヴァルハイト軍は、動かない。
ただ、構える。
完璧な布陣。
「……来ないな」
バルガスが言う。
「来ない」
「誘っている」
不用意に動けば、崩される。
「なら」
「こちらも動かない」
時間が流れる。
風が吹く。
それだけ。
「……戦わないのか?」
「戦っている」
「もう始まっている」
静かな声。
これは。
“読み合い”だ。
数時間後。
わずかに、動きがあった。
ヴァルハイト側。
左翼が、ほんの少し前に出る。
「……来たな」
小さく呟く。
「試している」
「反応を見るために」
「どうする」
「何もしない」
即答。
「……は?」
「反応すれば、読まれる」
「なら」
「無視する」
時間が流れる。
相手も、止まる。
再び、静寂。
「……なんだこれ」
バルガスが呟く。
「戦ってる感じがしねぇ」
「それでいい」
「これは、一日目だ」
「相手を知る日だ」
そして。
日が傾く。
どちらも、大きく動かない。
だが。
「……わかった」
小さく呟く。
「何がだ」
「指揮官の癖だ」
目を細める。
「合理主義」
「無駄を嫌う」
「だから」
「動けない」
確信する。
「……なるほどな」
バルガスが笑う。
「じゃあ」
「二日目で崩すか」
「ああ」
短く答える。
そして。
「勝つ」
静かに言う。
戦わずに。
それで終わらせる。
一日目は終わった。
だが。
戦は、ここからだ。




