第19話:本気
帝国は、変わった。
これまでの動きとは、明らかに違う。
「……来るな」
地図を見ながら、呟く。
分散はない。
揺さぶりもない。
ただ一つ。
一直線。
「……これは」
バルガスが目を細める。
「正面から来る気か」
「ああ」
「“試し”は終わった」
「次は、本気だ」
静かな断定。
「数は?」
「約五千」
「……少ないな」
「精鋭だ」
即答する。
「無駄を削った部隊」
「統制も高い」
「つまり」
「崩れない」
空気が重くなる。
「どうする」
「迎撃するか?」
「しない」
即答。
「……またか」
「正面から当たれば、負ける」
「なら?」
一拍。
「分ける」
地図に指を置く。
「この地形を使う」
山と川。
「進軍ルートは三つに限られる」
「なら」
「選ばせる」
「……誘導するのか」
「ああ」
「最も不利な道を」
静かな声。
「だが」
バルガスが眉をひそめる。
「相手は精鋭だ」
「そんな簡単に乗るか?」
「乗る」
即答だった。
「人は、楽な方を選ぶ」
「だからこそ」
「楽に見せる」
罠。
だが。
それに見えない罠。
「準備を進めろ」
命令が下る。
数日後。
帝国軍、進軍開始。
そして。
「……やはりな」
選ばれたルート。
最も“通りやすい”道。
そして。
最も、逃げ場のない道。
「入ったか」
静かに呟く。
谷。
左右は崖。
前後は狭い。
「今だ」
合図。
岩が落ちる。
道を塞ぐ。
後退不能。
そして。
上から。
矢。
火。
逃げ場はない。
「……終わりだ」
小さく呟く。
数時間後。
「敵部隊、壊滅!」
報告が上がる。
「……これが、本気か」
バルガスが息を吐く。
「いや」
首を振る。
「これは、入口だ」
「帝国は、まだ終わらない」
視線を遠くへ向ける。
――そして。
「……あいつが来る」
ぽつりと呟く。
「誰だ?」
「本命だ」
それ以上は言わない。
だが。
空気が変わる。
戦は、次の段階へ進む。




