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第18話:揺らぐもの

城下町の空気が、変わっていた。


 


 目に見える変化はない。


 


 だが。


 


 視線が違う。


 


 


「……あの人が」


「本当に大丈夫なのか?」


「帝国が狙ってるって……」


 


 


 小さな声。


 


 だが確実に広がっている。


 


 


 不安。


 


 疑念。


 


 


 それが、静かに浸透していた。


 


 


 


「……広がってるな」


 


 


 城壁の上。


 


 


 バルガスが、下を見ながら呟く。


 


 


「止めるか?」


 


 


 


「いや」


 


 


 


 首を振る。


 


 


 


「止めても意味がない」


 


 


 


「根が残る」


 


 


 


 噂は潰せない。


 


 


 押さえれば、形を変えるだけだ。


 


 


 


「じゃあどうする」


 


 


 


「放置する」


 


 


 


「……おい」


 


 


 


 バルガスが眉をひそめる。


 


 


 


「それでいいのか」


 


 


 


「いい」


 


 


 


 即答する。


 


 


 


「揺れるものは、揺れればいい」


 


 


 


 


 それが自然だ。


 


 


 


 


「……冷たいな」


 


 


 


 


「そうでもない」


 


 


 


 


「無理に止める方が、崩れる」


 


 


 


 


 それだけの話だ。


 


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


 


「ねぇ」


 


 


 


 


 


 声がする。


 


 


 


 


 


 振り向く。


 


 


 


 


 


 ルナだった。


 


 


 


 


 


 


「ほんとに、それでいいの?」


 


 


 


 


 


 


「ああ」


 


 


 


 


 


 


「不安は消えない」


 


 


 


 


 


「なら、慣れさせる」


 


 


 


 


 


 


「……それって」


 


 


 


 


 


 


 少しだけ言葉を選ぶ。


 


 


 


 


 


 


「諦めさせるってこと?」


 


 


 


 


 


 


「違う」


 


 


 


 


 


 


 即答する。


 


 


 


 


 


 


「理解させる」


 


 


 


 


 


 


「時間がかかるだけだ」


 


 


 


 


 


 


 


 沈黙。


 


 


 


 


 


 


 


「……難しいね」


 


 


 


 


 


 


 


「そうだな」


 


 


 


 


 


 


 


 否定はしない。


 


 


 


 


 


 


 


 


 その時だった。


 


 


 


 


 


 


 


「報告!」


 


 


 


 


 


 


 


 兵が駆け込む。


 


 


 


 


 


 


 


「市場で騒動が発生!」


 


 


 


 


 


 


 


「宰相への不信を訴える者が増加しています!」


 


 


 


 


 


 


 


 来た。


 


 


 


 


 


 


 


「……動いたか」


 


 


 


 


 


 


 


 小さく呟く。


 


 


 


 


 


 


 


 


「行くぞ」


 


 


 


 


 


 


 


 


 歩き出す。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 市場。


 


 


 


 


 


 


 


 人が集まっていた。


 


 


 


 


 


 


 


 


「このままでいいのか!」


 


 


 


 


 


 


 


「帝国に狙われてるんだぞ!」


 


 


 


 


 


 


 


「宰相が原因だろうが!」


 


 


 


 


 


 


 


 


 声が上がる。


 


 


 


 


 


 


 


 怒りではない。


 


 


 


 


 


 


 


 恐怖だ。


 


 


 


 


 


 


 


 


 その中心に、立つ。


 


 


 


 


 


 


 


 


 視線が集まる。


 


 


 


 


 


 


 


 


「……話は終わったか」


 


 


 


 


 


 


 


 


 静かに言う。


 


 


 


 


 


 


 


 


 ざわめきが止まる。


 


 


 


 


 


 


 


 


「……あんたが宰相か」


 


 


 


 


 


 


 


 一人の男が前に出る。


 


 


 


 


 


 


 


 


「ああ」


 


 


 


 


 


 


 


 


「本当に、この国守れるのか」


 


 


 


 


 


 


 


 


「守る」


 


 


 


 


 


 


 


 


 即答する。


 


 


 


 


 


 


 


 


「根拠は!?」


 


 


 


 


 


 


 


 


「ない」


 


 


 


 


 


 


 


 


 空気が止まる。


 


 


 


 


 


 


 


 


「だが」


 


 


 


 


 


 


 


 


「守る」


 


 


 


 


 


 


 


 


 それだけを言う。


 


 


 


 


 


 


 


 


 ざわめきが揺れる。


 


 


 


 


 


 


 


 


「……信用できるかよ」


 


 


 


 


 


 


 


 


「しなくていい」


 


 


 


 


 


 


 


 


 即答だった。


 


 


 


 


 


 


 


 


「……は?」


 


 


 


 


 


 


 


 


「信じなくていい」


 


 


 


 


 


 


 


 


「ただ」


 


 


 


 


 


 


 


 


「見ていればいい」


 


 


 


 


 


 


 


 


 静かな声。


 


 


 


 


 


 


 


 


「結果だけ見ろ」


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 沈黙。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


「……それでいいのかよ」


 


 


 


 


 


 


 


 


「いい」


 


 


 


 


 


 


 


 


「それでしか、証明できない」


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 誰も、何も言えない。


 


 


 


 


 


 


 


 


 正しいかはわからない。


 


 


 


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


 


 


 


 嘘ではない。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 その時。


 


 


 


 


 


 


 


 


「……私は信じるよ」


 


 


 


 


 


 


 


 


 ルナの声。


 


 


 


 


 


 


 


 


 小さい。


 


 


 


 


 


 


 


 だが、はっきりと響く。


 


 


 


 


 


 


 


 


「この人、ちゃんと守るから」


 


 


 


 


 


 


 


 


 静かに言う。


 


 


 


 


 


 


 


 


 その一言が。


 


 


 


 


 


 


 


 


 空気を、わずかに変えた。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


「……」


 


 


 


 


 


 


 


 


 何も言わない。


 


 


 


 


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


 


 


 


 


 それでいい。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 信頼は。


 


 


 


 


 


 


 


 


 一瞬では生まれない。


 


 


 


 


 


 


 


 


 だが。


 


 


 


 


 


 


 


 


 確実に。


 


 


 


 


 


 


 


 


 積み上がる。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 ――それでいい。



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