第146話:最初の崩壊国家
■フェルディナ辺境伯領・撤退路
「急げ!」
怒号。
兵たちが走る。
後退。
撤退。
故郷へ向かうだけ。
それだけのはずだった。
■先頭
「国境まであと半日!」
伝令が叫ぶ。
空気が少しだけ緩む。
帰れる。
そう思った。
その瞬間。
停止。
三拍。
血。
先頭兵が崩れる。
■連鎖
また一人。
また一人。
止まる。
血。
崩れる。
「なんでだ!!」
兵が叫ぶ。
「帰ってるだけだろ!!」
誰も答えられない。
■フェルディナ辺境伯領・本陣
「撤退路でも発生?」
レオル・フェルディナが固まる。
報告。
全撤退路。
同時。
停止。
三拍。
血。
「……あり得ない」
副官が震える。
「領域から離れているはずです」
沈黙。
長い。
「違う」
レオル・フェルディナが小さく言う。
「離れていない」
一拍。
「もう持ち帰っている」
空気が凍る。
■ガルディア共和国
「第五都市で停止現象発生!」
「何?」
アレス・ガルディアが顔を上げる。
「前線だけではありません!」
「帰還兵経由で拡大!」
沈黙。
その瞬間。
全員が理解した。
持ち帰った。
戦争を。
■都市
市場。
人々。
普通の日常。
そこへ。
帰還兵が入る。
停止。
三拍。
血。
悲鳴。
混乱。
初めて。
前線外で発生した。
■崩壊
「封鎖しろ!」
「帰還兵を止めろ!」
「都市に入れるな!!」
怒号。
だが。
遅い。
既に。
広がっている。
■フェルディナ辺境伯領
「都市部でも確認」
副官の声が震える。
レオル・フェルディナは黙る。
目の前の地図。
前線だけではない。
国内へ。
広がっている。
「……終わったな」
小さな声。
誰も否定しない。
■ヴァルハイン
「国内侵食開始」
レオナルトが報告を見る。
顔色が悪い。
「最初の崩壊国家になる」
参謀が静かに言う。
レオナルトは頷く。
「接触した時点で」
一拍。
「もう国境では止まらない」
■ノルヴァン公国
「……持ち帰ったか」
ロイドが目を閉じる。
帰還兵。
撤退部隊。
補給線。
全部。
繋がっていた。
「だから観測騎士団は退いた」
副官が震える声で言う。
ロイドは静かに頷く。
「広がるからだ」
■グランヴェルド工業連邦
「前線限定ではない」
技術官が言う。
「接触者経由で内部侵食確認」
一拍。
「国家防衛理論崩壊」
沈黙。
それは。
4大国にとっても重かった。
■アルカディア魔導皇国
「……感染ではない」
観測官が呟く。
「だが拡大する」
一拍。
「概念汚染に近い」
空気が冷える。
アルカディアが。
最も嫌う領域だった。
■ドラグナール竜騎帝国
「面白い」
低い笑い。
「戦場が広がるか」
一拍。
「なら全部戦場だ」
誰も止められない。
ドラグナールは。
最初から。
壊れる前提で動いている。
■セラフィス神聖教国
「……最初の崩壊国家」
司祭長が静かに言う。
若い司祭が震える。
「助けないのですか」
沈黙。
長い。
「近づけば」
一拍。
「こちらも壊れる」
返答できない。
正しかった。
■レグナス(上層)
「外部」
ミレアが報告する。
「ガルディア共和国」
「フェルディナ辺境伯領」
「国内侵食開始」
カイルが青ざめる。
「……前線だけじゃない」
ヴェルドは静かに頷く。
「だから遅かった」
「接触した時点で」
一拍。
「国そのものが巻き込まれる」
■ルナたち
「……広がっちゃった」
エリナが小さく言う。
ルナは静かに目を伏せる。
「うん」
「最初の崩壊国家になる」
レオンが笑う。
「4大国より先に理解したな」
ルナは小さく頷く。
「うん」
「レグナスに触っちゃいけないって」
■最後
ガルディア共和国。
フェルディナ辺境伯領。
二国連合は。
撤退に失敗した。
いや。
違う。
接触した時点で。
もう。
国家そのものが。
壊れ始めていた。
そして世界は。
初めて理解する。
レグナスに触れるという意味を。
(次話へ)




