第142話:最初の接触
■ガルディア共和国・進軍本隊
「予定通りだな」
ガルディア共和国執政官。
アレス・ガルディアが地図を見る。
レグナス西部。
抵抗。
少数。
異常なし。
「拍子抜けだ」
側近が笑う。
「4大国が騒ぐほどではありませんな」
兵たちの空気も軽い。
勝てる。
当然のように。
そう思っている。
■フェルディナ辺境伯領
「国境防衛線突破」
フェルディナ辺境伯。
レオル・フェルディナが笑う。
「弱いな」
一拍。
「これがレグナスか」
副官も頷く。
「通常国家です」
「宰相が異常という話も」
一拍。
「誇張でしょう」
誰も否定しない。
まだ。
本当に何も起きていない。
■レグナス西部
兵たちが下がる。
整然と。
混乱なし。
抵抗も薄い。
「逃げてますね」
ガルディア兵が笑う。
「普通じゃないか」
その通りだった。
普通に見える。
だから。
危険だった。
■ヴァルハイン
「……静かすぎる」
レオナルトが地図を見る。
レグナス側。
動きが少ない。
少なすぎる。
「防衛線を捨てています」
参謀が言う。
「おかしい」
一拍。
「レグナスは土地を簡単に捨てない」
沈黙。
嫌な予感だけが増える。
■ノルヴァン公国
「接触まであと半日」
ロイドが報告を見る。
「止まりますか」
副官が小さく聞く。
ロイドは首を振る。
「無理だ」
一拍。
「もう進み始めている」
「……遅い」
短い言葉。
だが。
重かった。
■グランヴェルド工業連邦
「異常なし?」
技術官が記録を見る。
「現時点では」
一拍。
「通常戦争範囲内」
沈黙。
それが。
逆に不気味だった。
■アルカディア魔導皇国
「……来ます」
観測官が呟く。
「どこでだ」
「分かりません」
一拍。
「ですが」
目を細める。
「静かすぎます」
アルカディアは。
違和感だけを掴み始めていた。
■ドラグナール竜騎帝国
「まだ壊れていないか」
低い笑い。
「つまらんな」
一拍。
「だが近い」
ドラグナールは。
“来る瞬間”を待っていた。
■セラフィス神聖教国
「……接触領域到達」
司祭が静かに言う。
祈りの声。
小さい。
誰も。
成功するとは思っていない。
■レグナス(上層)
「外部」
ミレアが報告する。
「ガルディア共和国」
「フェルディナ辺境伯領」
「予定地点到達まで半日」
カイルが顔をしかめる。
「……止めないんですか」
ヴェルドは静かに答える。
「止めない」
「なぜです」
一拍。
「理解には接触が必要だからだ」
カイルが黙る。
その言葉の意味を。
まだ理解できない。
■ルナたち
「……かわいそう」
エリナが小さく言う。
ルナは静かに前を見る。
「うん」
「でも、まだ普通の戦争だと思ってる」
レオンが笑う。
「最初が一番キツいぞ」
ルナは小さく頷く。
「止まれないからね」
■最後
ガルディア共和国。
フェルディナ辺境伯領。
二国連合は。
順調に進軍していた。
抵抗は薄い。
混乱もない。
普通の戦争。
普通の侵攻。
だから彼らは。
まだ笑っていた。
本当の接触が。
まだ始まっていないことも知らずに。
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