第143話:停止線
■ガルディア共和国・先鋒部隊
「到達まで三十分!」
伝令が叫ぶ。
先鋒は順調。
抵抗も薄い。
補給も問題なし。
「本当に拍子抜けだな」
将校が笑う。
「レグナスの宰相とやらも」
一拍。
「所詮は噂か」
兵たちも笑う。
空気は軽い。
普通の侵攻軍。
それそのものだった。
■前方
「……ん?」
先頭兵が足を止める。
道。
何もない。
敵影なし。
罠なし。
だが。
妙に静かだった。
「どうした」
後方から声。
「いや、なんか……」
言葉が止まる。
違和感。
だが。
説明できない。
■進軍再開
「止まるな」
命令。
兵が進む。
一歩。
二歩。
停止。
三拍。
血。
■最初の悲鳴
「……え?」
兵が崩れる。
首筋。
血。
だが。
攻撃がない。
誰も見ていない。
「敵襲!?」
叫び。
周囲確認。
敵影なし。
■混乱
「何が起きた!」
「矢は!?」
「魔法は!?」
何もない。
ただ。
兵が倒れた。
それだけ。
■フェルディナ辺境伯領側
「停止?」
レオル・フェルディナが眉をひそめる。
報告。
原因不明。
敵影なし。
被害発生。
「……馬鹿な」
副官が青ざめる。
「ついに来たか」
誰かが呟く。
笑いは。
もう消えていた。
■ガルディア共和国
「進め!」
アレス・ガルディアが怒鳴る。
兵が動く。
停止。
三拍。
また血。
「っ……!」
空気が変わる。
初めて。
兵たちが理解した。
普通ではない。
■現象
攻撃がない。
敵もいない。
だが。
結果だけが出る。
「なんだこれは……」
将校の声が震える。
返答はない。
誰も。
説明できない。
■ヴァルハイン
「接触したか」
レオナルトが静かに言う。
報告書。
停止。
三拍。
血。
同じ。
完全に。
同じだった。
「止まらない」
参謀が小さく言う。
レオナルトは目を閉じる。
「……ああ」
「ここからだ」
■ノルヴァン公国
「始まりました」
ロイドが記録を見る。
ガルディア共和国。
フェルディナ辺境伯領。
両戦線で同時発生。
「やはり領域型か」
副官が震える声で言う。
ロイドは頷く。
「接触した瞬間に変わる」
一拍。
「普通の戦争ではなくなる」
■グランヴェルド工業連邦
「……再現確認」
技術官が静かに言う。
記録映像。
停止。
三拍。
血。
完全一致。
「原因不明」
「対処法不明」
一拍。
「通常戦争理論から除外」
誰も反論しない。
できない。
■アルカディア魔導皇国
「接触領域確定」
観測官が言う。
「レグナス周辺で因果崩壊発生」
一拍。
「やはり」
誰かが呟く。
「レグナスそのものが異常領域だ」
沈黙。
それを。
認め始めていた。
■ドラグナール竜騎帝国
「来たな」
低い笑い。
「面白い」
一拍。
「だから壊しがいがある」
ドラグナールだけが。
恐怖していなかった。
■セラフィス神聖教国
「……停止線」
司祭が静かに言う。
「境界が形成されました」
誰も近づこうとしない。
それだけで。
十分だった。
■レグナス(上層)
「外部」
ミレアが報告する。
「二国連合、接触」
カイルが固まる。
「……始まりましたね」
ヴェルドは静かに頷く。
「ここから」
一拍。
「理解が始まる」
■ルナたち
「……もう戻れないね」
エリナが小さく言う。
ルナは静かに前を見る。
「うん」
「最初に見ちゃったから」
レオンが笑う。
「これで普通の戦争は終わりだ」
誰も否定しない。
■最後
ガルディア共和国。
フェルディナ辺境伯領。
二国連合は。
ついに接触した。
停止。
三拍。
血。
その瞬間。
彼らが信じていた戦争は。
静かに壊れ始めた。
(次話へ)




