第139話:沈黙国家
■他視点:セラフィス神聖教国・中央聖堂
鐘が鳴る。
低く。
長く。
聖堂全体に響いていた。
誰も喋らない。
祈りの声すら。
小さい。
■中央会議
「東部戦線」
司祭長が言う。
「観測不能領域、拡大」
一拍。
「離脱国家増加」
誰も驚かない。
既に。
報告は聞いている。
■問題
「介入しますか」
若い司祭が問う。
空気が止まる。
数秒。
沈黙。
それ自体が。
答えだった。
■司祭長
「……しない」
静かな声。
だが。
絶対だった。
「関与を避ける」
一拍。
「観測も最小限」
若い司祭が顔を上げる。
「ですが」
「世界が壊れています」
司祭長は頷く。
「知っている」
「だから近づかない」
沈黙。
冷たい。
だが。
恐怖ではなく。
理解の沈黙だった。
■セラフィスの判断
セラフィス神聖教国は。
最初から気づいていた。
これは。
戦争ではない。
触れてはいけないものだと。
■神官記録
「停止現象」
「結果先行」
「因果不成立」
「認識摩耗」
記録はある。
だが。
深く追わない。
それが。
セラフィスの選択。
■若い司祭
「……逃げているのでは?」
小さな声。
司祭長は否定しない。
「そうだ」
一拍。
「逃げている」
誰も動けない。
あまりにも。
正直だった。
■司祭長
「理解してはいけない」
静かな声。
「近づけば」
一拍。
「壊れる」
若い司祭が震える。
「観測騎士団ですら退いた」
「ならば」
司祭長は前を見る。
「我々が届く領域ではない」
■グランヴェルド工業連邦
「セラフィスが閉じたか」
技術官が言う。
「非合理」
一拍。
「だが理解はできる」
珍しく。
否定しなかった。
■アルカディア魔導皇国
「……正しい選択です」
観測官が静かに言う。
「少なくとも」
一拍。
「壊れないためには」
誰も返答しない。
アルカディアは。
近づきすぎた。
だから。
セラフィスの恐怖が理解できる。
■ドラグナール竜騎帝国
「祈って閉じこもるか」
低い笑い。
「弱いな」
一拍。
「なら俺たちが進む」
だから。
ドラグナールは。
最も危険だった。
恐怖を拒絶している。
■ノルヴァン公国
「セラフィスが完全沈黙」
ロイドが報告を見る。
「接触拒否」
「観測拒否」
「外部干渉拒否」
副官が小さく言う。
「……本当に怖いんですね」
ロイドは少し考える。
「違う」
一拍。
「理解したんだ」
「近づくこと自体が間違いだと」
■ヴァルハイン
「沈黙国家か」
レオナルトが呟く。
地図。
セラフィス周辺だけ。
異様に静かだった。
「止まったわけじゃない」
参謀が言う。
「目を閉じたんです」
沈黙。
それは。
敗北とも違う。
もっと静かな何かだった。
■レグナス(上層)
「外部」
ミレアが報告する。
「セラフィス、完全沈黙体制へ」
カイルが顔をしかめる。
「……怖いですね」
ヴェルドは頷く。
「当然だ」
一拍。
「最も壊れにくい選択だからな」
カイルが固まる。
「……え?」
ヴェルドは静かに言う。
「見ない」
「近づかない」
「理解しようとしない」
一拍。
「今のところ、それが最適解だ」
■ルナたち
「……悲しいね」
エリナが小さく言う。
ルナは静かに頷く。
「うん」
「でも壊れない」
レオンが笑う。
「何もしないのが正解か」
ルナは少しだけ目を伏せる。
「……今はね」
■最後
セラフィス神聖教国は。
世界から距離を取った。
戦わない。
観測しない。
近づかない。
それは。
恐怖ではなく。
理解の結果だった。
世界は。
少しずつ分かれていく。
壊れながら進む国。
全てを捨てて離脱した国。
そして。
目を閉じて沈黙する国。
誰も。
正解を知らないまま。
(次話へ)




