第138話:観測限界
■他視点:アルカディア魔導皇国・深層観測塔
「……またズレました」
観測士が言う。
巨大な観測陣。
数百枚の術式盤。
記録。
因果。
時間。
全てを固定している。
はずだった。
■観測結果
「前線記録と一致しません」
別の観測士が報告する。
「被害発生時刻が前後しています」
一拍。
「原因行動も一致しません」
沈黙。
アルカディアは。
理論国家だった。
だからこそ。
今の状況は致命的だった。
理論で繋がらない。
■深層観測室
「……もう一度」
観測長が言う。
記録を再生。
兵が歩く。
停止。
三拍。
血。
だが。
別記録では。
血が先。
停止が後。
さらに別記録では。
停止そのものが存在しない。
「何だこれは」
誰かが呟く。
返答はない。
■観測騎士団
「再現しますか」
騎士が言う。
観測長は黙る。
再現。
つまり。
現象を人工的に近づける。
以前。
一度試した。
結果。
観測騎士団は。
撤退した。
■記録
「観測不能」
「因果不成立」
「記録固定失敗」
「観測者側に逆流」
短い文章。
だが。
それだけで十分だった。
■観測長
「……駄目だ」
低い声。
「近づきすぎる」
一拍。
「今のアルカディアでは耐えられない」
誰も反論しない。
観測騎士団ですら。
届かなかった。
■グランヴェルド工業連邦
「観測失敗?」
技術官が眉をひそめる。
「アルカディアでもか」
一拍。
「なら測定不能として処理」
合理的。
だが。
その合理性すら。
揺らぎ始めていた。
■ドラグナール竜騎帝国
「観測など不要」
低い笑い。
「壊せば分かる」
一拍。
「壊れないなら」
「さらに壊すだけだ」
変わらない。
だからこそ。
恐ろしい。
■セラフィス神聖教国
「……観測してはいけない」
司祭が静かに言う。
「見た時点で」
一拍。
「近づく」
空気が冷える。
それは。
宗教的恐怖だった。
■ノルヴァン公国
「アルカディアが引いた?」
ロイドが目を細める。
報告書。
そこには。
観測縮小。
深層観測停止。
そう書かれていた。
「……本気で危険なのか」
副官が呟く。
ロイドは少し考える。
そして。
静かに言う。
「違う」
一拍。
「危険では済まない」
■ヴァルハイン
「観測騎士団が退くか」
レオナルトが地図を見る。
「なら」
参謀が言う。
「世界はもう理解不能領域です」
沈黙。
否定できない。
■レグナス(上層)
「外部」
ミレアが報告する。
「アルカディア、深層観測縮小」
カイルが固まる。
「……観測騎士団ですよね?」
ヴェルドが頷く。
「最も近づいた」
一拍。
「だから最初に退いた」
「……なんでです」
ヴェルドは短く答える。
「見えたからだ」
■ルナたち
「……怖いね」
エリナが言う。
ルナは静かに頷く。
「うん」
「分かる人ほど怖いんだと思う」
レオンが笑う。
「分からない方が幸せか」
ルナは少し考える。
そして。
小さく言う。
「……どうだろうね」
■最後
アルカディア魔導皇国は。
観測を縮小した。
理解を諦めたわけではない。
だが。
理解し続ければ。
壊れると知った。
観測騎士団ですら。
届かなかった。
その事実が。
静かに。
世界を震わせ始めていた。
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