第135話:空白地帯
■他視点:ノルヴァン公国・国境監視隊
「……静かすぎる」
監視兵が呟く。
目の前には。
リューベル王国旧戦線。
かつて。
数万規模の軍勢がいた場所。
今は。
何もない。
死体も少ない。
戦闘跡も薄い。
ただ。
武器だけが落ちている。
「本当に戦争してたのか?」
誰かが言う。
答える者はいない。
記録上では。
確かに存在した。
だが。
現実感がない。
■監視報告
「リューベル王国軍との接触なし」
「敵影なし」
「交戦なし」
一拍。
「……住民反応も薄い」
隊長が顔を上げる。
「どういう意味だ」
「戦争の話をしません」
沈黙。
「避けてるのか?」
「違います」
一拍。
「興味を失っています」
空気が重くなる。
■リューベル王国・地方都市
市場は開いている。
人もいる。
生活もある。
だが。
妙に静かだった。
「前線は?」
旅人が聞く。
店主は少し考える。
「……あったな」
短い返答。
感情がない。
恐怖も。
怒りも。
ない。
「家族は?」
「戻ってない」
一拍。
「そうか」
会話が終わる。
誰も続きを話さない。
■ノルヴァン公国
「感情反応が薄い?」
ロイドが資料を見る。
「はい」
副官が頷く。
「戦争に対する執着が消えています」
一拍。
「まるで」
言葉を止める。
ロイドが続きを言う。
「戦争そのものを切り離したか」
沈黙。
それは。
理解に近い。
だが。
同時に危険だった。
■エルドリア王国
「感情を失った?」
ガレスが眉をひそめる。
「そこまでして離脱する価値があるのか」
誰も答えない。
だが。
前線を維持している国も。
既に壊れ始めている。
どちらも地獄だった。
■グランヴェルド工業連邦
「非合理的」
技術官が切り捨てる。
「国家維持能力が著しく低下」
一拍。
「存続効率なし」
それだけ。
だが。
誰も安心していない。
■アルカディア魔導皇国
「……空白化している」
観測官が言う。
「戦争への認識だけが抜け落ちている」
一拍。
「だから現象から外れた?」
「可能性は高い」
だが。
試せない。
試した時点で。
国家が終わる。
■ドラグナール竜騎帝国
「弱い」
低い声。
「捨てた時点で敗北だ」
一拍。
「なら戦い続ける」
その判断だけは。
一切揺らがない。
■セラフィス神聖教国
「……魂の摩耗」
司祭が静かに言う。
「恐怖ではなく」
一拍。
「切断です」
誰も返答しない。
理解したくなかった。
■ヴァルハイン
「空白地帯化か」
レオナルトが地図を見る。
リューベル王国周辺。
そこだけ。
異様に静かだった。
「戦争を捨てた結果」
参謀が言う。
「戦争そのものへの執着を失っています」
一拍。
「国家としては致命的です」
レオナルトは黙る。
否定できない。
■レグナス(上層)
「外部」
ミレアが報告する。
「リューベル王国、空白地帯化進行」
カイルが小さく息を吐く。
「……怖いですね」
ヴェルドが頷く。
「当然だ」
一拍。
「戦争を終わらせた代償だからな」
■ルナたち
「……静かだね」
エリナが言う。
ルナは目を細める。
「うん」
「でも壊れてる」
レオンが笑う。
「死んでないだけマシか?」
ルナは少し考える。
そして。
静かに答える。
「どうだろうね」
■最後
リューベル王国は。
生きている。
だが。
熱がない。
怒りも。
執着も。
戦争も。
そこだけ。
世界から切り離されたように。
静かだった。
そして。
その静けさこそが。
世界に新しい恐怖を広げていた。
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