第134話:受け入れ
■他視点:リューベル王国・旧前線地帯
戦場だった場所。
だが。
今は静かだった。
風だけが吹いている。
武器は落ちている。
旗も倒れている。
それでも。
誰も拾わない。
「……終わったのか」
元兵士の一人が呟く。
誰も答えない。
終わった。
だが。
勝ったわけではない。
逃げたわけでもない。
ただ。
全員が。
戦争を続けることをやめた。
それだけだった。
■リューベル王国・臨時議会
「前線被害は」
「減少しています」
一拍。
王が目を閉じる。
「……本当に離脱できたのか」
誰も断言できない。
現象は消えていない。
だが。
明らかに弱くなっている。
「理由は」
「不明です」
短い返答。
誰も理解していない。
それでも。
結果だけが存在する。
■ノルヴァン公国
「リューベル王国の共通点が見えました」
ロイドが言う。
机に資料が並ぶ。
・命令系統崩壊
・集団的戦意喪失
・戦争目的の消滅
・敵味方認識の希薄化
「……軍として終わっている」
副官が呟く。
ロイドは頷く。
「だから抜けられた」
一拍。
「逆に言えば」
「国家機能を維持したままでは不可能だ」
沈黙。
重い。
あまりにも重い結論。
■エルドリア王国
「つまり」
ガレスが言う。
「国として戦争をやめるのではなく」
一拍。
「兵が“国家”を捨てなければならないのか」
誰も答えない。
だが。
否定もできない。
「……狂っている」
小さく漏れる。
その通りだった。
■グランヴェルド工業連邦
「非効率」
技術官が切り捨てる。
「統制崩壊を前提とした回避法など実用性なし」
即断。
「採用価値なし」
だが。
誰も反論しない。
理解しているからだ。
理論上可能でも。
国家では扱えない。
■アルカディア魔導皇国
「……受け入れたか」
観測官が記録を見る。
「戦争を捨てることで現象から外れた」
一拍。
「ならば」
誰かが言う。
「現象側に“戦争”として認識されなくなった?」
沈黙。
あり得る。
だが。
証明はできない。
■ドラグナール竜騎帝国
「くだらん」
低い声。
「戦わずに生き残るなど敗北だ」
一拍。
「なら壊して進む」
変わらない。
だからこそ。
危うい。
■セラフィス神聖教国
「……境界が薄れている」
白衣の司祭が言う。
「国家と個人」
「戦争と現象」
一拍。
「区別が消えている」
誰も返答しない。
それは。
既に理解を超えていた。
■ヴァルハイン
「リューベル王国は生き残った」
レオナルトが言う。
「だが国家として死んだ」
参謀が頷く。
「兵は戻りません」
「命令も戻らない」
一拍。
「もう軍ではない」
静かな結論。
つまり。
生存と引き換えに。
国の形を失った。
■レグナス(上層)
「外部」
ミレアが報告する。
「リューベル王国、軍機能低下継続」
カイルが顔をしかめる。
「助かったのに……」
ヴェルドが答える。
「代償だ」
一拍。
「現象から外れるとはそういうことだ」
■ルナたち
「……戻れないんだね」
エリナが小さく言う。
ルナは頷く。
「うん」
「もう前みたいにはならない」
レオンが笑う。
「救いじゃねぇな」
ルナは静かに答える。
「最初から救いじゃないよ」
■最後
リューベル王国は。
生き残った。
だが。
以前のリューベル王国ではなくなった。
戦争を捨てるとは。
国家を捨てることだった。
世界は。
少しずつ理解していく。
この現象には。
勝利も。
敗北も。
存在しないのだと。
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