第133話:成立条件
■他視点:ノルヴァン公国・観測室
ノルヴァン公国は。
見ていた。
エルドリア王国が。
離脱に失敗した瞬間を。
「記録を戻せ」
観測将ロイドが言う。
水晶盤に。
前線の記録が映る。
エルドリア王国軍。
撤退命令。
後退行動。
そして。
停止。
三拍。
血。
「……戦っていない」
副官が呟く。
「それでも被害が出ている」
ロイドは頷かない。
ただ。
画面を見る。
「最初に離脱した国の記録を出せ」
別の映像が浮かぶ。
リューベル王国。
最初に戦争から外れた小国。
兵は武器を下ろした。
命令ではなく。
自分の意志で。
その後。
現象は弱まった。
「……違うな」
ロイドが言う。
「何がですか」
「エルドリアは命令で離脱した」
一拍。
「リューベルは兵が先に離れた」
沈黙。
副官が息を呑む。
「つまり」
「命令では抜けられない」
ロイドは低く言う。
「兵が、戦争そのものを捨てなければならない」
だが。
それは国家にとって。
最悪の条件だった。
軍が。
命令ではなく。
自分の意志で戦争を捨てる。
それは。
統制の死を意味する。
「……成功しても国が壊れる」
副官が言う。
ロイドは静かに答える。
「そうだ」
一拍。
「だから成立条件ではあるが」
「解決策ではない」
■エルドリア王国・王都
「ノルヴァン公国から報告です」
ガレスが書簡を見る。
離脱失敗。
原因仮説。
命令による撤退では不可。
「……ふざけるな」
紙を握る。
「兵に、勝手に戦争を捨てろというのか」
誰も答えない。
それは。
国家ではない。
軍ではない。
ただの崩壊だ。
「ならば続けるしかない」
ガレスは言う。
だが。
その声に。
力はなかった。
■ヴァルハイン
「ノルヴァンが近づいたか」
レオナルトが言う。
参謀が頷く。
「リューベル王国とエルドリア王国の差を見ています」
「兵の意思か」
「おそらく」
一拍。
レオナルトは目を閉じる。
「最悪だな」
「はい」
「勝っても壊れる。逃げても壊れる」
参謀は静かに言う。
「だから、戦争ではありません」
■レグナス・上層
「ノルヴァン公国、成立条件に接近」
ミレアが報告する。
カイルが顔を上げる。
「かなり近いですよね」
ヴェルドは首を振る。
「近いが、まだ違う」
「違う?」
「兵の意思だけでは足りない」
一拍。
「その意思を、戦場全体が受け入れる必要がある」
カイルは黙る。
「そんなの」
「普通は起きない」
ヴェルドが言う。
「だから再現できない」
■ルナたち
「リューベル王国は運が良かったの?」
エリナが言う。
ルナは少し考える。
「運じゃないと思う」
レオンが見る。
「じゃあ何だ」
「諦め方が揃ってた」
沈黙。
ルナは続ける。
「戦うことをやめたんじゃない」
一拍。
「戦争の中にいることを、全員でやめた」
エリナが目を伏せる。
レオンが小さく笑う。
「無理だな」
ルナは頷く。
「うん」
「普通は無理」
■最後
条件は。
少しだけ見えた。
だが。
それは救いではない。
国として命令すれば失敗する。
兵として逃げれば崩壊する。
全員が同時に戦争を捨てなければ。
抜けられない。
そんなものは。
ほとんど奇跡だった。
世界は。
また一つ理解した。
答えに近づくほど。
救いが遠ざかるのだと。
(次話へ)




