96話 悪魔的交渉術
ギアが言ってた軍がここに来るんだろうか?
まあ、来たら来ただ。
そのための準備も済んでいる。
なぜなら、抜かりのない男、それが俺だから。
ギアの断末魔が消えてから、わずか数十分後。
村の外に――
黒い影の軍勢が押し寄せてきた。
空気が震えるほどの足音。
槍の先が太陽を反射し、黒い波のように揺れている。
これがギアが言ってた軍なんだなろう。
本当に進軍中だったのね。
ちゃんと準備してるから問題ないけどな。
村の入口に立つ俺の前で、その進軍がピタリと止まった。
「止まれ!」
俺は胸を張り、堂々と叫ぶ。
軍勢が一斉にこちらを見る。
その視線の圧に、普通なら足がすくむだろう。
だが――
俺はニヤリと笑った。
(ちゃんと統率が取れてる軍のようでひとまず安心。
コレなら責任者と話が出来そうだ。
統率の取れてない軍が相手だと、対話してても勝手な行動されて交渉どころじゃないだろうしな。
こっちの準備は万端だし、対話を始めますか!
話し合いが一番大切だからな)
さてと……
「オラァ!
全員おとなしくしろや!
俺は優しいし、平和的ただから交渉してやる!
ありがたく思え!
……そんじゃ、例のモノを」
パチンッ!
俺が指を鳴らすと、オーガたちが例の柱を運んできた。
縄でぐるぐる巻き、猿轡、目隠しされたギアが縛り付けてある柱だ。
オーガたちがその柱を支えて立てる。
どうかな?
軍隊のみんなからコレ、よく見えるかな?
「お、おい。
アレって……」
ざわ…
ざわ…
軍勢がざわつく。
よかった。
ちゃんとある程度後ろの方にも見えてるみたい。
客さんたちに見えるか不安だったけど、結構長い柱にしといて正解だったな。
ほら、俺って気を使うタイプだから、心配しちゃってた。
「オラオラオラァ!
このギアちゃんが見えるな?
コレが、どうなってもいいのかぁ?
あぁ〜ん?」
俺は柱の周りをよたよた歩きながら挑発する。
どうした?
みんな黙ってるけど、コレが心配じゃないの?
ほら、みんな声出していこうよ。
ったく。
ギアの野郎、人望ねぇのか?
「……結構、睨んでるねぇ」
俺に注がれる、憎悪の視線。
いくら鈍感な俺でも気づきますよ。
どうでもいいけど。
「ん?」
軍の中から、馬に乗った偉そうな男が前に出てきやがったが、この軍の責任者か?
「貴様、そのお方を誰だと思っている!
魔族の大幹部であるギナ様の弟君、ギア様だぞ!
苦しまずに殺してほしければ、即刻ギア様を解放しろ!」
あら、自信満々で言っちゃって。
「いや、解放しても殺すって、なんだお前!」
そんな理不尽、通るワケがないだろう。
まったく。
縛られているギアを見上げて、ため息をついた。
アイツが立場をわきまえない発言をしたので――
バシッ! バシッ!
「オラー!
なんだ、今の発言は!
お前の教育がなってないからだろう!
反省しろ、オラッ!」
「ヴゲフッ」
ギアが変な声を出したが、知らん。
「部下を教育してないお前が悪い。
そういう暴力的なの良くないぞ!」
バシッ! バシッ!
馬の男が怒りで前に出ようとした瞬間――
いや、気づくよ!
「おい、止まれよ。
舐めてんのか?
変な真似したら、こいつ殺すぞ」
俺はナイフを抜き、ギアの足をブスッと刺す。
「ヴゥゥゥゥゥーー!」
ギアが呻く。
前に出ようとした馬を男は慌てて止めた。
「ほらぁ、可哀そうに!
お前が不用意な行動をとるから、ギアが痛い思いしたんだぞ!
ちゃんと、理性的に会話しようぜ。
暴力からは何も生まれないんだから少しは考えてくれよ」
「貴様がさっきから、暴力を…… ぐっ!」
馬の男――後にライルと名乗る男が、俺の表情から察したのか黙った。
「よかったな。
また刺されるところだったぞ」
ギアに教えてあげた。
本当に、お前のところの人間は口の利き方がなっていない。
まあ、だんだんあのバカも解ってきたみたいだけどな。
よし、主導権はこちらだ。
「お前らみたいな悪党と交渉してやろうって、俺が優しいからだぞ。
普通、正義の味方面してるような奴なら問答無用に皆殺しコースだぜ。
それを、対話でどうこうしようって、慈愛に満ちてるじゃねぇか。
ありがたいよな?
お前、こっちこい。
……お前だよ、そこの馬乗ってる、お前。
ごちゃごちゃ言わず、呼んでるんだから馬から降りて早くこっちにこい。
ちんたらしてたら、ギアの足をもう一度刺すけど、いいんだな?」
対話を呼びかける優しさを見せたつもりだったのだが、オーガ達は――
「ひ、酷い……どっちが悪党だよ……」
ドン引きしていた。
「お前ら味方だろ?」
なんで俺を見る目が冷たいんだよ……
・
・
・
◆◆ 会談の開始 ◆◆
俺、ウィズ、ミロース、ギア付き柱、ライル、村長ジャックの六名が、野外の会談場所に移動した。
ギアの柱を地中に刺して固定した後、全員が席につく。
ギアも会談の内容が気になるだろうし、仲間外れはしないからな。
(※ギアは気になっていません)
「まずは自己紹介だな。
俺は野上博志。ヒロシと呼んでくれ。
こっちがウィズとミロース」
俺が言うと、村長ジャックが立ち上がる。
「俺はこの村の長、ジャックだ。
どっちも早く村から出ていってほしい」
凄い睨まれた。
……おい村長、味方に冷たくない?
「私はライル。
ギア様の部下だ。
不在のギア様の代理として軍を指揮している」
落ち着いた声だが、目は警戒している。
まったく。
やれやれ。
「みんな、交渉事って互いの信頼関係が大切だろ?」
ジャックとライルから睨まれた。
いいですよ、もう。
「じゃ、始めるか」
俺はギアを指差す。
「確認だが、アレ、お前らの大将なんだよな?」
「そうだ。ギナ様のいるチャングム王国への侵攻軍の指揮官だ」
「侵攻軍?」
俺は眉をひそめる。
裏から操るのやめて、王様排除して乗っ取るつもりだったのか?
ライルは淡々と説明した。
「以前より謀反の嫌疑がかけられていたギナ様から、定期連絡がなくなった。
そのため、弟のギア様が自ら事態の把握に向かわれたのだ。
謀反であれば、そのままチャングム王国ごと制圧するための軍を引き連れてな」
身内の裏切り者を始末しに来たってわけか。
ん?
おかしくない?
……ギアってこの軍の責任者なんだよな?
「じゃあなんでギアは一人でフラフラしてた?」
「そ、それは……ギア様の悪い癖だ」
ライルが歯切れ悪く答える。
そうか。
ギアの方をみた。
……村人いたぶって遊ぶためか。
本当にクソ野郎だな。
「まずはギア様の拘束を解いてもらいたい」
「ダメだ。何の合意も取れてない」
俺が即答すると、ライルの顔が歪む。
いやいや。
何のために話し合いをしていると思ってるんだ?
「話にならん。我々は村を通り抜けるだけだ。
村人に手を出さないと約束しよう」
村長ジャックの顔が明るくなる。
(バカ! 満足してんじゃねぇよ!)
小声で注意したが、不満そうな顔をするな。
しょうがねぇな。
「……わかったライル。
でもな、こっちは負傷者と死者が出てる。
それを無視することなんて出来る訳がない。
賠償の話をしようか」
俺は肘をつき、指を組んで言った。
ライルの表情が固まる。
「賠償?
貴様、正気なのか?」
いざとなったら、軍で襲い掛かってもいいのに条件を付ける俺がおかしくなったとでも思ってるんだろうな。
「償え!
暴力で人を傷つけた代償は払うべきだ!
暴力なんて、最低だぜ!」
ウィズが男らしく言ったが、お前さっきギアを滅多打ちにしてたけど……
「お前たちも大概、暴力で……」
俺とウィズを見てジャックがつぶやく。
無視しとこう。
「かわいそうに……善良なアイツが殺されるなんて……」
(※ヒロシは死んだオーガの名前すら知らないが沈痛な面持ちです)
「お前、今日きたばかりだろ?」
ジャック、少し黙っててくれるかな。
「話にならん。皆殺しにされたいのか?」
ライルが見下すように言ってきた。
まったく泣き落としの効果なしでした。
なら、次だ。
「ライル、そんな口きいて大丈夫か?」
俺はギアを見た。
「脅しか?
ギア様に何かあれば、その時点で、お前らも終わる」
ライルが椅子にもたれて余裕の表情。
なんだ?ギアをあきらめたのか?
可哀そうに。
「お前らを殺さないで通りすぎる。
……これが我々の最大の譲歩だ」
ライルは強気を崩さない。
なんだ。
まだ、ギアの事をあきらめたわけじゃないのね。
俺はフッと笑った。
「バカか?
俺達も死ぬ気で戦うぞ?
こっちを皆殺しに出来るかもしれないけどな、お前らの大多数が死ぬだろうね。
戦略的に何の意味もない、こんな場所で戦力削っていいの?
本来の目的も果たせなくなるかもな?
いや、少数で行っても失敗するに決まってる。
俺が上司なら処罰案件だぞ。
評価も地位も下がるんじゃない?
……なら、金で解決した方が楽だと思うけどな」
「大きなお世話だ」
ライルのイラつきが伝わってくる。
「よく考えろ!」
ウィズが言うが、格好がふざけてるので説得力ゼロ。
「払う気はないが……要求は幾らだ?」
よし、交渉の余地あり!
「そうだな。
お前らの持ってる金すべて。
足りない分は武具と食料を置いてけ」
「ふざけるな!」
ライルが立ち上がる。
動揺してるな。
「座れよ、ライル。
皆殺しにするぞ」
冷静に静かに言って、俺は椅子にふんぞり返る。
「そこまでしてもらわなくても……
遺族が生活していくのに幾らかもらえれば……」
さっきは、ただ出てって欲しいだけだったのに。
「優しいなぁ、村長は」
ニヤニヤしてして言った。
欲を出し始めたな、村長ジャック。
「これは支払うしかないな。
お幾ら支払えますか?
ラ・イ・ル」
俺は挑発しながら催促する。
「お、お前ら……ふざけるな!!」
ライルが剣に手をかけた瞬間――
「抜いたら終わるぞ」
ミロースの低い声が響いた。
その眼光に、ライルがビクリと震える。
「女の子もそう言ってんだ、座れ、ライル」
「……くッ」
ライルは剣から手を離し、座り直した。
「……金貨10枚だ」
ライルが苦虫を嚙み潰したような表情でつぶやいた。
死んだ人間がいるんだから桁が違うだろ?
「ほ、本当か?!」
ジャックが興奮して立ち上がる。
ったく、余計な事を言うんじゃないよ。
「落ち着いて、ジャック。
そんなんじゃ遺族の生活が成り立たないもんな、わかるぞ」
そう言って、ジャックを座らせた。
不思議そうな顔をするんじゃない。
いいから、黙ってろ。
「冗談だろ?
遺族に金貨100枚。
負傷者一人につき金貨30枚。
精神的・肉体的に迷惑を被った俺達に金貨500枚だ」
俺はニヤニヤしながら言った。
吹っ掛けといて、妥当な金額に落とし込む。
「ヒロシ、欲張るな」
ミロースに怒られてしまった。
「ライル。
我々の分はいらない。
だから遺族と負傷者に賠償してやれ」
ミロースが腕を組んで言った。
金なら持ってるし、いらないから全然かまわない。
嫌がらせて自分たちの分を要求しただけだからな。
ライルの肩が、わずかに落ちた。
「……わかった。
被害者の人数が分からないので、手持ちで足りるかわからないが、出来る限りの支払いをしよう。
足りない分があれば、後日支払いに来る。
……だからギア様を解放してくれ」
ライルがついに折れた。
そこまで法外な金額を要求しているわけでもないだろうし、被害人数から、総額があいつらの手持ちで足りるだろう。
「合意成立だな」
俺は笑顔で言った。
「俺は約束を守る男だ。
ちゃんと金の支払いが済んだら、アレは解放してやるからな」
こうして――
賠償金の支払いが決定し、交渉は終わった。
「交渉ってのは、誠意と対話が大事なんだよな」
稀代のタフネゴシエーターとして読者にその名を轟かせている俺だが、どうだったろうか?
交渉回で少々長い話になってしまったが、呼んでくださり本当にありがとうございました。
もうすぐ100話になりますが、これからも頑張って執筆していきますので、変わらぬ応援をよろしくお願いいたします。
素晴らしい読者の皆様、評価とブクマ、よろしくお願いします。




