第88話 ドラゴン航空、極寒の旅
窓の外は大空の絶景が広がる。
高い高度の為か気温が低い。
そうは言っても軽キャンの中だし温かい飲み物をいただいているので快適そのもの。
素敵な空の旅が続く。
ビュオォォォォーー!
空を飛ぶ。
ドラゴン航空は快調に高度を上げ、速度を上げ、前川の体温を奪っていく。
ぐんぐん進む。
「ひっ……ひぃぃ……!
あっじでずーー!!」
前川が寒さでガチガチ震えながら案内を続けている。
声が震えすぎて、もはや何語か分からない。
ヘリウスの背にしがみつき、風圧で顔の皮がバタバタしている前川。
勇者の威厳? そんなものは最初から無い。
ビュオォォォォーー!
俺は軽キャンの中で、暖房の効いた快適空間に座り美しい嫁さんと楽しくおしゃべりしている。
「本当にレイラもプロムも綺麗だよな」
「何よ、改まって……何か悪い物でも食べた?」
「いや、酷いなレイラ」
「レイラ様、ヒロシ様はいつでも正直です」
「それもそうね。オホホホ」
やっぱ、みんなと別で夫婦で軽キャンに乗ったのは正解だ。
嫁さんと好きなだけイチャイチャ出来て楽しい。
ビュオォォォォーー!
ガチガチガチガチガチ……
前川が凍傷になりそうになりながらも必死にキャンピングカーにしがみついている。
「し、死んでたまるかぁあああ!!」
途切れそうになる意識を大きな声でつなぎ留める前川がそこにいた。
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チャングム王国――
「ギナ! ギナはおるか!」
チャングム王が廊下をバタバタ走りながら叫んでいる。
王の威厳? そんなものは最初から無い。
「王よ、いかがなされた?」
闇からスッ……と現れるギナ。
相変わらず登場の仕方がホラーだ。
「ギナよ、そこにいたか」
王はおろおろしながら近づいてくる。
「お主の言うように、む、息子が……ワシを殺そうとしておったわ!」
ギナはゆっくりと笑みを浮かべた。
「そうであろう。
我に従えば、その身もこの国の行く末も安泰よ……
そして王は、世界を統べる」
甘い毒のような声で囁くギナ。
「チング王子を殺し憂いを除け」
その一言を残し、闇に溶けるように消えた。
「そ、そうだ……ギナの言う通りにしていれば間違いないのだ。
殺してやる……イヒ、イヒヒヒ……」
チャングム王はヨダレを垂らしながら笑い出す。
完全に正気を失っていた。
ギナと王の会話を離れた場所で身を隠し聞いた警備兵は、真っ青な顔をして走り出す。
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「チング王子、逃げてください! 殺されます!」
警備兵がノックもせずに王子の部屋へ飛び込んだ。
「なんだ、お前は!」
チング王子が驚いて立ち上がり剣を掴む。
警備兵が膝をつき不敬を詫びながらも一刻も早く逃げるように訴える。
「王様とギナが王子殺害の話をしているのを、この耳で聞いてしまいました!
時間がありません、早くお逃げください!」
警備兵の必死の訴えにチング王子は考え込む。
ギナが来る前であれば考えるに値しない戯言に過ぎないが……
最近の父上の言動はおかしい。
民を省みず、戦争の準備ばかりしている。
昔の父上なら、ギナのような怪しい男の言う事など従うはずがなく、そもそもギナなど側に置くことも考えられない。
考えることでチング王子は悲しい気持ちになった。
「……わかった」
王子は決断した。
今死ぬわけにはいかない。
ここで自分が死んでしまえば、王を諌める者がいなくなってしまう。
そうなれば、一番苦しむことになるのはこの国の民だ。
民を守るためにも、今は逃げて生き延びるしかない。
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「いないぞ!」
「探せ!」
兵士たちが王子の部屋になだれ込むが、すでに王子の姿はなかった。
その頃、王子は城の外へと抜け出していた。
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ヒロシたち――
チャングム王国の王都近くまで来たので、ミロースとヘリウスに降ろしてもらうことにした。
ドラゴンが王都に直行したら目立つどころの話じゃない。
国中の噂になる。
森の中に適当な空き地があったので、そこに着地。
前川は凍死寸前だった。
「し、死ぬかと思いました……」
ガタガタ震えながら言う前川。
よく生きてたな、こいつ。
「流石は勇者だ。タフだね」
回復薬を飲ませてあげた。
外に出してたの忘れてたとは言わない方が良いだろう。
ミロースとヘリウスには人化してもらい、目立たない姿に。
「それじゃ、二人とも、あっちの大きい方に乗ってくれ」
俺はルファスのキャンピングカーを指差した。
もちろん前川も、運転指導員兼ナビ役として乗車だ。
祖国に帰ってきたんだから、そんな嫌そうな顔をするな。
ルファスのキャンピングカーを先頭に、軽キャン+トレーラーが続く。
目標はチャングム王国の王都!
ブロロロロ――
『ノガミさん、ちょっといいですか?』
魔導ブレスレットからルファスの声だ。
「どうした、ルファス?」
『ドラゴンが目立つからって離れた場所に降りましたよね?』
「そうだよ?
それがどうした?」
『いや、今乗ってるのも十分目立ちませんか?』
「……」
なんて余計な事に気づくんだお前。
「いや、いいよ。
歩くのめんどくさいし。
アレだったら、お前らだけでも歩きで行っても――」
『……このままいきましょう。
みんな歩きたくないと言ってます』
「そうか。
そしたら、安全運転で頼むぞ」
歩きにならなくて良かったと思いながら走っていると、前方のキャンピングカーが急停車した。
前川がキャンピングカーから降りるのが見えた。
「何事だよ?」
俺も降りて様子を見に行くか。
軽キャンを降りると前川の野郎が馬に乗った若い男に近づいていくのが見えた。
知り合いなのだろうか?
前川、国についたから知り合いに会えたな。
散々ゴネてたけど、連れてきてもらえて良かっただろう?
さてと。
軽キャンクラブ、不動のリーダーこと俺が、挨拶をビシッと決めてやるか。




