第87話 出発! そして前川は泣く
ドラゴンの里にちょっかいを出してくる、前川の所属している国に行かねばならぬ。
ああいう輩は、迷惑かけるんじゃねぇドラゴンの里に近寄るなって抗議しないと、キリがないからな。
チャングム王国の王宮――
薄暗い玉座の間の片隅で、ひとりの男がイラついた様子で爪を噛んでいた。
魔族の国から派遣された幹部――『ギナ』
その顔は怒りと焦りで歪み、噛んでいた爪はすでにボロボロだ。
「チッ……また邪魔が入った……!」
順調だったセガル王国での計画が失敗に終わり、今回も失敗した。
魔界に戻れば、待っているのは粛清以外の道は無い。
だが、そんなことはどうでもよかった。
アガス将軍の視界越しに見た【 あの男 】
セガル王国で遭遇した、あのふざけた奴。
許せない。
絶対に許せない。
ギナはついに爪を噛みちぎった。
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ドラゴンの里―― 軽キャンクラブの拠点。
「みんなー準備はOKですかー?」
俺は引率の先生のように声を張る。
忘れ物など無いようにと言っておいたが、みんな準備万端って顔。
頼もしいかぎりだぜ。
……ただし、一名を除いてだけどな。
木にしがみつき、震えながらこちらを見ている勇者・前川。
しょうがないな。
俺はニコニコしながら近づいた。
「どうした、前川?
お腹でも痛いのか?」
「……」
だんまりですか?
……しょうがない。
「前川くん、誤解しているみたいだね。
僕は前川君の事をとても頼りにしているんだよ。
だから、嫌がる君に道案内を頼んだりして……
本当に悪かったよ」
深々と頭を下げる俺。
「ヒロシさん……?」
前川が木から手を離した。
この人も話せば分かるんだ……
そんな風に思っているのだろうか、驚いた表情をしていた。
いや、そんな風に思われるのも今までの行動をみれば当然か。
「前川……」
俺は優しく微笑んだ。
前川が、おずおずと近づいてくる。
ありがとう……
「はい、確保ね」
俺の声に隠れていたウィズとバンが飛び出す。
前川、拘束。
「手間かけさせやがって。
道案内のお前がいないと全員迷惑するのが分かんねぇのか?
舐めんなよ、この野郎」
俺は高笑いした。
「こ、この悪魔ーー!」
前川はキャンピングカーへ引きずられていった。
実に愉快だ。
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前川が嫌々キャンピングカーに乗り込むと、運転席にはルファス、助手席にはキャスカ。
運転席の後ろに腰かけようとした前川が、何かに気づいた。
「ん?」
前川が目を細めたり頭の位置をずらしながら必死にキャスカの方を見ていた。
「……見えない……!」
前川は絶望した。
角度的に、キャスカの服の隙間から何かが見えると思ったのだろうが、残念ながらキャスカは完璧にガードしていた。
「ルファスさん、いきましょう!」
前川は謎のテンションで言った。
振動で何かが起きるかもしれないと期待しているらしい。
「お兄様ごめんなさい。
前川、ちょっときなさい」
「ん? キャスカちゃんなあに?」
キャンピングカーの後部に呼ばれた前川は、キャスカに振りの早いローキックを受けて膝をつく。
「お前どこ見ようとしてた?
今度変な動きしてみろ、ぶん殴るからな」
見下ろせる高さになった前川の顔に顔を近づけキャスカが忠告して助手席へと戻った。
前川がなぜ気づかれたのか分かっていないが、ミラーに映った覗き魔の姿をキャスカに見られていたのだ。
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俺が軽キャンにキャンピングトレーラーを連結していると、空から巨大な影が降りてきた。
ミロースとヘリウスだ。
ドラゴンの羽ばたきで風がすごい。
「ミロース! どうした!」
「長が、一緒に行くって」
「はぁ?」
理解不能。
「だって、お前ら行ったら帰ってこないかもしんないもん」
しんないもんって子供か、ヘリウス。
「お前は里の長だろ! 何かあったらどうすんだ!」
責任感無さすぎだろう。
うん。
そんな、捨てられた子犬みたいな顔をするな。
「……ついてきたいなら、危険な時はちゃんと逃げるって約束しろ!」
俺が叫ぶと、ヘリウスが大きく頷いた。
「まったく、ちゃんと守れよ。
いっしょに行くんだから、ヘリウスとミロースにも仕事を与えるからな」
ガシッ!
ガシッ!
ミロースが軽キャンとトレーラーを掴み、ヘリウスはルファスのキャンピングカーを掴む。
「そんじゃ行きますか! 案内頼むぜ、勇者先生!」
俺はキャンピングカーの上に乗せられた前川に声をかけた。
前川に外に出てもらっているのは、ヘリウスに道案内してもらうための苦渋の決断だ。
「この悪魔めーー!」
前川が叫んでる。
俺はニッコリ笑って窓を閉めた。
寒いし、風邪をひいたら大変だからね。
さて、到着までの間暇だしレイラとプロムとカードゲームかなんかして遊んでよう。
夫婦の団らんは楽しいね。
空の旅行も良いものだ。
……何か忘れているような気がするが。
まあ、いっか。




