第81話 勇者の処遇・後編
前川の処遇を決めた!
グジグジ考えても、しゃあないからな。
なるようにしかならんだろう。
次の日――
「あ、あ、危ないっ!」
キャンピングカーがフラフラと蛇行し、また木に軽くぶつかった。
今はルファスが運転しているはずだ。
……まぁ、そのうち慣れるだろう。頑張れ、ルファス。
俺は遠巻きに見守りながら、そう思った。
「ちゃんと前を見て運転しないと駄目じゃないか!」
勇者・前川が、なぜか教官ぶって注意している。
「運転というのは、なかなか難しいものですね」
キャンピングカーをバックさせるルファスは真面目にバックモニターを確認しながら答えた。
「サイドミラーも確認! ほら、そこ!」
前川がさらに口を挟む。
「ちょっとアンタ! もっと優しく教えなさいよ!」
キャスカが前川に詰め寄る。
「俺は優しいですよ……うへへ」
前川がキャスカの足をいやらしい目で見てニヤついた。
ゾゾゾッ……
キャスカの腕に鳥肌が立つ。
「キャスカちゃんは、後で。 ねっ」
前川が妙な含みを持たせて言う。
……その「ねっ」が一番キモい。
なんでこいつは毎回こうなんだ。
ゾゾーッ……
さらに鳥肌が立つ。
……「後で」とは運転のことだろうが、
どう聞いても別の意味にしか聞こえない。
「ホントに、死ねばよかったのに……」
キャスカは冷めた目でつぶやいた。
結論から言うと、俺はクソ川――勇者・前川 彰を殺さなかった。
なんだかんだ言って、俺は優しいのだろう。
寛大な俺は、前川に【 運転指導係 】という仕事を与えた。
ただし、裏切りや余計な行動をしないように俺とレイラでしっかり教育しておいた。
今のところ逆らう気配はない。
まぁ、逆らったら……その時は、その時だ。
ゴルソンみたいに奴隷にしたほうが憂いが無くて良かったのかもしれないが、それはおいおい考えよう。
日本にいた頃、金の力で周囲を奴隷扱いしていた前川だ。
自分が同じような境遇に置かれても文句は言えないだろうけどな。
全ては今後の前川次第だ。
俺の優しさは家族と仲間で手一杯だ。
前川にまで割く余裕はない。
せいぜい気を付けたらいいんじゃないんですかね。
そんなわけで、
ルファスとキャスカが運転をマスターするまでの間、
俺たちはドラゴンの里に滞在することにした。
ミロースの話では、ドラゴンたちはもっと奥地にいるらしく、この辺りで俺たちが過ごす分には問題ないらしい。
問題ないと言われても、縄張りの端とはいえお邪魔している身だ。
そうですかって、知らん顔も出来んだろう。
「ミロースいいか、
ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
つまらないものですが、皆さんで食べてください
って伝えてコレを渡すんだぞ」
挨拶代わりに缶ビールやお菓子を袋に詰め、
里の長に渡すようミロースに頼んだ。
気配りの出来る男、それが俺だ。
そして、数週間が過ぎた――
「ヒロシ元気か?」
白髪の爺さんがが手を振りながらやってきた。
人に変化しているコイツは、ドラゴンの長・ヘリウスなのだが……
今日も来た。
いや、昨日も来たし、一昨日も来た。
……と思いつつ、俺も手を振り返す。
いつものように、人化したミロースが後ろに控えていた。
毎日、爺さんの世話も大変だろう。
ヘリウスは、俺が渡した缶ビールやお菓子を相当気に入ったらしく、毎日のように遊びに来る始末。
初めて会ったときはビビったのを思い出す。
最初はドラゴンの姿で現れたから、かなりビビったぜ。
そのあと、人の姿になってくれたのは良かったが、素っ裸だった。
そんな恰好で俺たちの目の前をウロウロされて、別の意味でビビったぜ。
そういう訳で、目の前で人化されると色々と困る。
だから、今では離れた場所で服を着てから来てもらっている。
「毎日飽きないもんかね?」
俺は軽キャンの後ろにあるアイテムボックスから、
缶ビールとつまみを取り出す。
ヘリウスは勝手知ったる様子で軽キャンに乗り込み、
すでにスタンバイですか、そうですか。
「ヘリウス、ほらビール。今コップ出すから待てよ」
ヘリウスが嬉しそうに缶を受け取る。
「あっ、待てって!」
ヘリウスがそのまま飲もうとしやがった。
ピシッ。
軽く手を叩いて止めたが、行儀が悪いぞ。
ミロースがビクッと肩を震わせる。
長にそんなことをするのは、世界で俺だけだってミロースが言ってたような気がするが、どうでもいいや。
俺にしたら、ビールやつまみをたかりにくる爺さんだし。
「ちゃんとコップに入れて飲もうぜ。絶対その方が旨いから」
「うーん、相変わらずヒロシは厳しいのう」
しゅんとしながらコップを待つヘリウス。
「よし、最初からそうしろよ」
ヘリウスが素直に言う事を聞いたので、俺はビールを注いでやった。
ミロースはハラハラしながら見ている。
まったく心配性だな。
お前、家に遊びに来た時、全然そんなんじゃねぇじゃないか。
ミロースとヘリウスは上下関係があるんだろうけど、俺にとってヘリウスは上司でも何でもない。
ただの飲み友達だ。
友達は対等だろ?
「では、本日のつまみはこれだ」
俺はサバ缶を取り出し、
皿にマヨネーズを出して軽く混ぜた。
あとは一味をお好みで。
「食おうぜ、ヘリウス。ミロースも食べなよ」
二人が一口食べる。
「あ、なかなか」
「長、簡単に美味しいのができましたね」
二人とも気に入ったようだ。
ゆっくりしていったらいい。
俺は、あたりめを食べながら窓の外を見る。
外では、レイラ、ウィズ、バン、プロム、カイ、フィリーが
3対3で模擬戦をしている。
毎日メンバーを入れ替えて頑張ってるな。
みんな、どれくらいレベルが上がったんだろう。
動きや模擬戦をみるかぎり戦力が順調に充実してきているのが分かる。
俺はビールを飲みながら、ヘリウスと観戦した。
ヘリウスの指摘は参考になる。
そして――今日もそろそろか?
「ミロース、相手をしてあげなさい」
ヘリウスが言う。
いつもの流れだ。
「おーい、そこまで!」
俺は軽キャンの外に出て、模擬戦を中断させた。
「みんなー! 今日もミロースが稽古つけてくれるぞー!」
レイラたちが一斉にこちらを見る。
今日こそ負けないってやる気満々、良い顔してる。
俺が指揮をとり、今日もミロースに挑みましょうか!
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「レイラ、カイは弓で牽制!」
「バンを先頭に、ウィズ、プロムは正面へ!」
「フィリーは後方で魔法準備! 合図したら撃て!」
フォーメーションを昨日の反省を生かして別のにしたが、今日は結構持ってる。
まだ全滅してないからな。
ドゴーン!
フィリーの魔法がミロースの前に落ち、
煙が広がる。
「もっと精度を上げたほうが良い。
それとも、私に傷をつけないようにと思っているのだったら、無用だ」
ミロースが呆れた様子で喋っている。
そんな余裕で良いのか?
ザッ!
煙の中からバンが飛び出す。
ミロースが少し反応が遅れたが、バンに向かう。
その瞬間、左右からウィズとプロムが切り込む。
ミロースが遅れを修正できないまま、攻撃を受けた。
「離脱!」
三人は素早く後退。
ミロースの視線が、次の獲物を探すように動く。
その余裕が腹立つんだよ。
「いまだ、レイラ、カイ!」
ミロースへとレイラとカイの矢が降り注ぐ。
連携のとれた攻撃が続く――
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夕方――
ヘリウスたちが帰る時間だ。
俺たちはボロボロになりながら回復薬を飲んでいる。
結局、今回も俺たちの負けだった。
「大分強くなったな。今日は怪我をした」
ミロースの手には小さな擦り傷があった。
……強くなったと思っていたが、
まだまだだと痛感する。
みんなを見ると、
今日の戦いで何か掴んだのか、
楽しそうに話し合っている。
この向上心が、俺たちの強さの源なのだろう。
俺は立ち上がり、ヘリウスとミロースに礼を言って見送った。
新たにキャンピングカーを手に入れ、
みんなの修行にもなる。
ここに来て、本当に良かった。
……だが、この時の俺は知らなかった。
この地に迫る“悪意”を――
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軽キャンクラブと前川がいる場所から離れた森の中。
ドラゴンの里を目指す百名程の一団が進んでいた。
セガル王国の残党の魔導科学者たちと、武装したチャングム王国の兵士たち。
目的は――ドラゴンの捕獲。
捕らえたドラゴンの自我を奪い、セガル王国と同じように【 兵器 】として利用する為に……
森の奥で、風とは違う気配が揺れた。
その足音は、確実にこちらへ向かっていた。
ミロースとの修行で俺たちもパワーアップしたと思う。
厳しくも楽しい毎日。
なんだかんだで穏やかな日常なのだが……




