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第78話 勇者の正体

勇者を捕獲した。

弱いし、なんだコイツ。

 焚き火の火がぱちりと弾ける。

 俺達は円を描くように座り、その中心に自称勇者の罪人、前川 彰が正座していた。


 俺の右にレイラ、左にプロム。

 レイラの隣にはルファスとキャスカ。

 プロム側にはカイとフィリー。

 そして正面、焚き火を挟んで、ウィズとバンに挟まれた前川が縮こまっている。


 罪状は二つ。

 ドラゴンの里での騒動。

 そしてミロースへのつきまとい――ストーカー行為。


「名前は?」


 俺はふんぞり返って尋ねた。


「ぼ、僕の名前は……前川 彰です」


 迷惑かけといて、おどおどした声で同情でも誘ってんのか?

 そんなもんで俺が――ん?


 前川 彰?


 どこかで聞いたような……。


「お前、年齢は?」


「33歳です」


「え?!」


 いや、ハゲかかってるからもっと上かと思ってた。

 舐めてんの?

 いや、それは理不尽か。


 33。若いな。


 あっ!

 もしかして――


「お前、動画サイトでキャンピングカー紹介してなかった?」


 俺がそう聞くと、異世界組は「?」だが、前川の顔がぱっと明るくなった。


「ええ! 知ってるんですか?

 こんなところで視聴者さんにあえるなんて、こんな事あるんですねぇ。

 キャンピングカーの動画だと……

 『彰のやってみよう! ワクワクキャンピングライフ編』の動画ですね!」


 動画の名前なんて知らねぇと思ったが、そんな名前だったような気がする。

 個性的な顔だしコイツ。

 何回か見たから間違いないだろう。


 モヤモヤが一気に晴れてスッキリした。


「どこかで見たと思ったんだよ。

 軽キャン買う前、いろんなキャンピングカー関連の動画見まくってた時に見た。

 他の人の動画に比べて全然面白くも無いし、キャンピングカーより自分の自慢ばかりで最悪なアレな!

 キャンピングカー愛ゼロで不快だったけど、アシスタントの皆川 愛ちゃんが可愛いし、セクシーな服だったから何回か見た」


 愛ちゃんの可愛さを思い出してほっこりする。

 なんでこんなのが登録者数が多いんだ?と思ってたが、見てたからか親近感があるな。


 同じ日本人だし、敵対するより友好的に――そう思って正座を解かせようと近づいた、その時。


「いや~あの女、どうしようもない尻軽で。

 金目当てか知りませんけど、散々遊んで捨ててやりまし――」


ビターン!


「なんだ、お前は!」


 反射的にビンタしていた。

 ちょうど目の前にいたしな。

 ヘラヘラしやがって、最低だ。


 同胞だから仲良くしようとした俺の気持ちを返せ。


 席に戻ると、前川は頬を押さえて「???」の顔。


「その若さであんな高額のキャンピングカー買うって、たいしたもんだよ。

 でも無理して高額なの買って生活キツかったんだろ?

 そのストレスから愛ちゃんを騙したんだろうけど、理由にならんぞ。

 人として最低だ」


 年長者として注意した。

 俺も軽キャン300万で生活キツかったが、女の子をそんな扱いする発想は絶対に出ない。


「ネット通販とかIT関連の会社をいくつか経営してまして……

 キャンピングカーなんて、あんなもん税金対策ですよ。

 撮影後は運転しにくいし乗ってませんし。

 まあ動画の広告収入もかなり入ったんで無駄じゃなかったですよ。ウヒヒ。

 あの尻軽女に3000万ほど使いましたが、そんなはした金で楽しめました」


 アラブの石油王かお前は?


 ……軽キャン買うのに必死で節約して貯金した俺の立場は?


 イラつくが、まあ努力して稼いだのなら仕方ない。

 嫉妬は見苦しい。

 でも……

 やめるんだ、俺。

 人は人、自分は自分。

 明鏡止水。

 そうさ。

 宇宙から見たら小さな――


「あの時は女優とかアイドルと遊びまくって、楽しかったなぁ~!

 金さえあれば、アイツらすぐに股開きますしね!

 金持ちの僕が何やっても許されますから! ハハハハ!」


 ウィズもバンもドン引き。

 レイラとプロムは――


「落ち着きなさい。

 こんなの殴ったら手が腐るぞ」


 俺は二人を諫めた。

 暴力からは何も生まれない。


 さて。


 うん、こいつはクソ!



「オラッ!」


ガツッ!


 折り畳み椅子でクソ野郎を殴っ――いや、手が滑った。


「あらら、手が、滑っちゃったぁー。

 オラッ!

 オラッ!」


 さらに数発。

 椅子が変形した。


「ヒエェ~、な、何なんですか~!」


 前川がふらつく。


 ……これは妬み嫉みと、全女性に代わっての制裁だ。

 俺は男らしいので自分の駄目なところも認める。

 俺がやりたいからやってるだけだ。気にせず食らえクソ野郎。


「だ、誰か、助けて!」


 だが、異世界組は冷たい目で前川を見るだけで無反応。

 そりゃそうだ。こいつの発言は最低だ。


 俺的には完全にクソ野郎認定済み。


 しかし……金さえあれば好き勝手できる前の世界って、あれが正解なのか?

 

「なら、俺は異世界でいいわ!」


 こっちの方が楽しいし。

 大好きな嫁さんも仲間もいる。


「クソ川、ちょっと来い」


 殴るのを止め、前川を連れてキャンピングカーのチェックへ向かう。


 やっぱスゲーなこのキャンピングカー。

 もはや家だろ。

 靴を脱いで中へと入る。


「クソ川、お前、異世界転移して何か特殊能力もらった?」


 棚を開けると、高そうなワインがぎっしり。

 俺はいつもの発泡酒じゃなくて、ちゃんとしたビール積んでホクホクしてたのに……いちいちムカつく。


 没収だ。


「え? くそ?

 なんですか?

 僕は前川ですけど……」


 はい、無視。


「特殊能力は?」


 質問に答えないのでイラついた声で聞く。


「特殊能力もらいました、ゴニョゴニョ……」


「聞こえねぇ、はっきり言え」


 クソ川の頭をパシッと叩いた。

 前川が渋りながらも口を開く。


「あの……

 鼻くそが、メロン味になる特殊能力を授かりま――」


ビターン!


「んな訳あるか!」


 この野郎、教えたくないからって、そんな明らかな嘘を。


「ほ、ホントです~!」


 頬を抑えて真剣な顔で言うな。

 そんな顔をしても――


 ……マジなの?


 いや、こいつなら……。


「お、お前……鼻くそ食べるの?」


 クソ川から少し距離をとって聞いた。


「いや、食べませんよ!」


 疑わしい。

 抱かれた女達が可哀想になってきた。

 ああ、その辺を触るなよ。


「で、他には?」


 こいつは頭が切れる。

 そんなクソみたいな能力、鼻くそを食うコイツならではなのかもしれないけど、あるんだろ?

 脅威になるようなのが。

 絶対何か隠してる。


「……レ、レベルが上がると……」


「レベルが上がると?

 ……なんだ?」




「レモン味や、グレープ味になりま――」


ビターン!


「やっぱ食ってんじゃねぇか!」


 前川は必死に否定していたが、信じない。

 味を知ってる時点でアウトだ。

 もう嫌だ、コイツ。


 外を見ると、レイラ達が食事の準備をしていた。


「おい、鼻くそ食い。

 ところで、なんでミロース――あのホワイトドラゴンを倒そうとしてんの?」


 俺は、運転席に移動しながら聞く。


「いや、チャングム王国ってとこに異世界召喚されて、勇者だから戦争に参加するか、モンスター討伐して国に貢献しろと言われまして……」


 は?


「お前、なんでいきなりドラゴン相手にしてんの? バカなの?」


「いや、僕って勝ち組じゃないですか?

 それに異世界に来たらチート能力がデフォでしょ?

 だから余裕だと思ったんですけどねぇ」


 ミロースに殺されてれば良かったのに……。


「それより、あの胸の大きいエロい感じの女、ヒロシさんの奴隷ですか? いくらしました?」


 プロムのことか。

 本当にイラつくな、こいつ。


「俺の奥さんだよ!」


 そう言いながらエンジンをかけようとした瞬間――


ビリッ!


「イッ!」


 痛った。

 指が弾かれたぞ。


「……やっぱり登録者以外は起動できない仕様か」


 さて……どうするか。


 仲間にする?

 この鼻くそ食いをか?


 無理だ。

 絶対問題起こす。


 運転席から前川の背中を見る。


「この野郎」


 外のプロムをイヤらしい目で見ていやがる。

 救いようがない。



 ……仲間にできないなら、いっそ――



 俺は、ゆっくりと音を立てないように前川に近づいた。

仲間に出来ない不安要素は……

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