第72話 グラナス高原決戦④
我が家に帰ってきた。
さて、ルファスとキャスカは良い子で待ってくれてたかな?
「ルファス! キャスカ! 帰ったぞ!」
屋敷に到着した俺は、玄関を開けながら声を張り上げた。
だが――返事がない。
胸の奥になんだか分からないが、嫌な予感が走る。
そして、俺たちは屋敷中を探し回ったが、どこにも二人の姿はなかった。
「ヒロシ様! みんな!」
プロムが、震える手でテーブルの紙を持ち上げていた。
「どうした?
なんだよ、その紙」
俺たちは集まり、その紙を覗き込む。
手紙か?
差出人は――ルファス。
どうしてこんなものを……
「……馬鹿野郎」
俺は手紙を受け取り、クシャッと握りつぶした。
「ああ! 何が書いてあった?」
ウィズが不安そうに聞く。
俺は深呼吸し、紙を広げて読み上げた。
『ノガミ様へ
この手紙を読んでいるということは、グラナス高原の戦いに勝利されたのでしょう。
あなたたちなら必ず勝つと信じていました。
ですが、この国と同じように侵略を受ける国がまだ多くあります。
もしノガミ様が他国を助けに行けば、ラガス王国は再びヴァルファの手に落ちるでしょう。
だから私がヴァルファ帝国に戻り、侵略行為を止めさせます。
どうか、私たちの帰りを待っていてください。
ルファス』
「は?
あいつ、一人で行って何が出来るんだよ!」
ウィズが叫ぶ。
その声には怒りと不安が混じっていた。
だが、叫んでも状況は変わらない。
「ルファスを止めに行く!」
俺は手紙をポケットに突っ込み、走り出した。
「俺も!」
ウィズたちが続こうとするが――
「俺が行く!
お前らはヴァルファの残党に備えて、この国を守れ!」
全員が感情的に行動してどうする。
戦争に勝ったとはいえ、ヴァルファ帝国軍の逃亡兵がそこらにいるんだろう。
それに、最悪ヴァルファ帝国に行くことになる。
感情的でバカで突っ走るしか能のない俺のやることに巻き込んで、仲間を危険に晒すわけにはいかない。
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軽キャンに飛び乗ると、すでにレイラとプロムが乗っていた。
「お前ら……いつの間に?」
「手紙を見た時に読みました。それでレイラ様に相談したら……」
「ヒロシのことだから、絶対行くと思ったよ。
ほら、早く!」
レイラが俺を急かす。
――この二人は、俺が仲間を見捨てないと信じてるんだな。
本当に、最高の嫁さんだぜ。
「……しょうがない奴等だな」
そう言いながらも、ちょっと泣きそうになっちゃった。
「しっかり掴まってろよ、飛ばすぞ!」
エンジンをかけ、アクセル全開!
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一方その頃――
ヴァルファ帝国へ向けて山岳地帯上空を飛ぶキャスカとルファス。
「お、お兄様、もう、そろそろ魔力が切れそうですわ……」
キャスカの声は震えていた。
「無理させてごめんなキャスカ、あの辺に降りられるか?」
ルファスが指差したのは、森に囲まれた小さな広場。
キャスカはふらつきながらも、そこへ降下していく。
地面に降り立つと、キャスカはその場に座り込み、肩で息をした。
「疲れましたわ……お兄様、もう大分来たんじゃありません?」
「すまない、キャスカ。……感謝しているよ」
ルファスはキャスカの頬に手を添え、そっと抱き寄せた。
二人は草の上に腰を下ろし、しばらく寄り添ったまま静かに呼吸を整える。
――ヴァルファに戻れば、命の保証はない。
それを理解した上で、キャスカはここにいる。
「キャスカ……後悔していないかい?」
ルファスの問いに、キャスカは微笑んだ。
「何度も言いましたわ。
私は、お兄様と一緒にいるのが幸せなのです。
それで命を落とそうと……構いませんわ」
ルファスは胸が締め付けられるほど愛おしくなり、キャスカを強く抱きしめた。
二人は互いの温もりを確かめ合うように、静かに寄り添い続けた。
――その時間は、覚悟を固めるための大切なひとときだった。
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森の中を、軽キャンピングカーを走らせる、爆走だ!
ルファス、キャスカ……お前達は何処にいるんだよ。
「全然いない!」
俺は軽キャンを走らせながら叫んだ。
大分走ってきたのに、姿が見えない。
レイラとプロムも必死に周囲を見渡してくれているが、手がかりすらない。
この時の俺たちは、キャスカたちが飛んでヴァルファ帝国に向かっているなんて思ってもいなかった。
「まだ先なのか……?
だったら二人が出発したのって、いつなんだよ……」
焦りが胸を締め付ける。
だが、その奥では、もう理解していた。
ルファスが、俺たちに迷惑をかけたくなかったこと。
キャスカは、兄の覚悟を支えるために一緒に行ったこと。
「そんなこと、とうに分かってた事だろ!」
そういう奴らなのに、なんで、なんで俺はルファスたちを置いて行ったんだ。
こうなる事ぐらい予想できただろ、俺。
自分のバカさ加減にほとほと嫌気がする。
クソっ!
そうじゃない。
「今は、追いかけるしかない。
余計な事は考えるな、二人を見つける、それだけを考えろ!」
「わ、わかったわ」
「はい、ヒロシ様!」
自分に言い聞かせたのだが、レイラとプロムが答えた。
威圧的で最低じゃないか。
ああ、もう最悪だ俺。
自分にいら立つ俺はアクセルを踏み込んだ。
軽キャンは森を抜け、山岳地帯へ突入する。
「ルファス……キャスカ……本当にどこだよ……
無事でいてくれーー!」
俺は叫びながら、さらにアクセルを踏み込んだ。
どうも、クソ野郎のヒロシです。
私がクソバカ野郎だったせいで、ルファスとキャスカが出てってしまいました。
焦りながらも俺は必死で二人を探すが、見つかんないよ!




