第70話 グラナス高原決戦②
作戦も練ったし、いっちょ戦争に参加と行きましょうかね。
「ラフィス様!」
連日の緊張と寝不足で、カイトの顔には疲労の色が濃く刻まれていた。
だが、王女ラフィスの姿を見た瞬間、胸の奥に灯がともるように、体に力が戻るのを感じた。
「苦労をかけたな、カイト。
ムトゥに代わる新たな指揮官を連れてきたぞ」
「え……?
ラフィス様が指揮をするのでは?」
カイトは当然、ラフィスが前線指揮を執るために来たのだと思っていた。
だが、ラフィスの言葉はその予想を軽く裏切った。
「新しい指揮官は、ヒロシ・ノガミ。ノガーミ商会の創設者だ」
「……はい?」
カイトは思わず素っ頓狂な声を出した。
落ち着いて見渡すが、ラフィスの周囲には騎士団しかいない。
「ヒロシ」なる人物の姿はどこにも見えない。
「ラフィス様、その……新しい指揮官はどこに?」
「ヒロシは、やる事があるので後から来る!」
ラフィスはそれだけ言い残すと、さっさと設営された指揮テントへ入っていった。
「ま、待ってくださいラフィス様!」
カイトは慌ててその後を追う。
だが、胸の奥に広がる不安は消えなかった。
―― ヒロシ・ノガミ
その名を、カイトはまだ知らない。
だが、この後、戦場の常識を破壊する災害として、その名を記憶することになる。
・
・
・
陽が落ち、グラナス高原は夜の闇に沈んだ。
両軍の陣営に松明が灯り、風に揺れる炎が兵士たちの疲れた顔を照らしていく。
その静寂の中――
月明かりの下で、ひとつの影がゆっくりと弓を引き絞る。
月に雲がかかり、影は闇に溶ける。
ヒュッ!
闇を裂く鋭い音。
ガシャッ
ヴァルファ帝国軍本陣前の松明が倒れた。
ヒュッ!
ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ!
連続して松明が射抜かれ、次々と闇に沈んでいく。
「な、なんだ!?」
「松明が?」
「おい、どうした?!」
「どうして松明が消えてるんだ?」
「敵?」
「明かりを用意しろ」
異変に気づいた兵士たちが騒ぎ出した。
その時!
ビイィィイィィィーーーー!!
夜の静寂を破壊する、耳をつんざくクラクション!
ヴァルファ帝国軍の後方から、アップライトにした軽キャンピングカーが猛スピードで突っ込んできた!
ライトの光が兵士たちを照らし、影が乱れ、混乱が広がる。
「な、なんだあれは!?」
「なんだあの強い光は?!」
「眩ッ! 目、目がぁ!」
本陣テントからアデロン将軍が飛び出した。
「何事だ!」
兵士たちは混乱し浮足立ってアデロン将軍に答える者がいない。
「なにをしておる! 誰か、状況を説明せい!」
怒声を放ったアデロンが目を凝らすと、眩しい光が一直線にこちらへ迫ってくるのが見えた。
「なんですか? あれ?」
遅れて出てきたロディア将軍が光を指差す。
「ワシに解るハズが……
まっ、また出たぁあああああ!!」
ガタガタガタガタガタガタ……
アデロンの顔色が一瞬で蒼白になり、全身が震え始めた。
「うぎゃぁああああああああーー!!」
アデロン将軍が突然絶叫する。
「アデロン将軍!
どうした?!落ち着け!」
ロディアは意味がわからない。
アデロンの尋常ではない震え方。
迫りくる光。
「敵襲ーー! 戦闘態勢をとれーー!」
ロディアが叫ぶが、遅かった。
目の前に、光の主、軽キャンが急停止したのだ。
ウィィィィィィン
軽キャンの窓が開く。
「またお前か?
……ツイてねぇな、お前」
運転席から顔を出したヒロシが、軽く言い放った。
「あぁ……あわあわあわ……」
アデロンは尻を押さえ、アワアワ言いながら後ずさった。
「なんだ貴様は!
ラガス王国の者か?
本陣を急襲したつもりかもしれんが……
ヴァルファ帝国、疾風のロディアがいたことを後悔するがよい!」
ロディア将軍が剣を抜き、ヒロシの前に立ちはだかった。
・
・
・
【 はーい、こっからはヒロシ視点でいってみよう 】
なんだコイツ。
偉そうな鎧着て、
「なんだ貴様は!
ラガス王国の者か?
本陣を急襲したつもりかもしれんが……
ヴァルファ帝国、疾風のロディアがいたことを後悔するがよい!」
剣を抜いてかっこつけてる。
うん、今だな。
「確保だ! レイラ、プロム!」
俺の声と同時に、軽キャンの上からレイラとプロムが投網を放つ!
網は見事にアデロンと、剣を持った偉そうな奴に絡みついた。
「な、なにをするっ!」
剣の奴が暴れだした。
「って、馬鹿野郎、網が切れるでしょうが!」
道具を大切にする男、俺ヒロシは網を切られるんじゃないかと焦った。
丈夫な網だから大丈夫だとは思うのだが、傷ついたら嫌だ。
持論だが、道具を大切に出来ない人間が人を大切に出来るとは思わない。
だから、こいつはどうしようもない奴なんだろう。
人の持ち物を傷つけようなんて、ふてぇ野郎だ。
「ウィズ!」
「任せろ」
ガツン!
「うぎゃっ!」
ウィズが剣で網を傷つけようとした非常識極まりない野郎の頭をこん棒でぶん殴った。
お見事。
「よっしゃ、いくぜぇ、ハッ!」
ウィズが掛け声とともに、剣道の面の練習のようにリズミカルに殴り始めた。
「ぎゃッ!」
「ハッ!」
「ぎゃッ!」
「ハッ!」
「ゲヒッ!」
「ハッ!」
二回に一回はアデロンへ。
ウィズもなかなかニクいね。
日本に行ったら、和太鼓集団に就職出来るんじゃないか?
「フフ……ウィズったら、やるじゃん」
ぺったん、ぺったん、ぺったん。
う~ん。
餅つきみたいだねぇ。
ほうら、ふくれてきたよ。
赤くて、血だらけ、めでたいなっと!
いや、こんな事してる場合じゃないんだった。
敵の本陣で余裕ぶっ込みすぎだろ。
「バン!」
バンが投網の先を軽キャン後部の連結部にくくりつけてくれた。
もういいかな。
「準備完了、みんな乗れ!」
レイラ、カイが屋根へ、プロム、ウィズ、バンが中へ飛び乗ったのを確認。
いいかな?
俺はアクセルを踏み込む。
ブォオオオオン!!
「イーーッ、ヤッハーー!!」
軽キャンが走り出し、アデロンとロディアを引きずりながらラガス軍方面へ突っ走る!
さっさと帰ろう。
「おお、早いね」
サイドミラーには騎馬隊が迫ってきているのが見えた。
「レイラ、カイ、撃て!」
二人の矢が次々と迫りくる騎馬を撃ち落とす。
だが――
「数が多すぎるな!」
キリがねぇや。
俺はスピードを上げた。
ブロロローー!!
引きずられている将軍たちがバウンドし、地面に叩きつけられる。
心配するな。
引きずられてるのは、俺じゃない。だから、気にするな!
ヴァルファ軍を抜けようとしたその時――
ドゴォオオオーーン!!
敵陣で巨大な爆発が起こった!
炎が夜空を照らし、兵士たちの混乱が最高潮に。
「フィリー、上手いことやってくれたな」
ここまでは、作戦通り。
ブロロローー!
・
・
・
「レイラ、中に入って」
ラガス軍に到着した俺は、捕虜を置いてレイラを軽キャンに乗せる。
「ほんじゃ、フィリーの回収行ってきまーす」
軽キャンが再び加速する。
ブォオオオオーーン!
・
・
・
ブロロローー!
「どいた、どいたー!」
敵陣を避けるように人の波が割れ、俺はフィリーの回収地点へ到達した。
敵の本陣から少し離れたとこで魔法を撃ってもらったが大成功。
「レイラ!」
軽キャンを追ってきてた奴らを弓で迎撃してもらう。
急げ、急げー!
「乗って!」
「は、はいですぅ」
フィリーを助手席に押し込み、即離脱!
「アディオーース!」
軽キャンは夜の戦場を駆け抜けた。
ブロロローー!
・
・
・
ウワァーー!!
ワーーー!
ワーーー!
ラガス軍前に帰還すると、大歓声が上がった。
「え? 何?」
予想外の歓声にビクッとする俺。
「やったな、ヒロシ!」
車を降りた俺にラフィスと若い男が駆け寄ってくる。
「カイト、こいつが指揮官のヒロシだ!」
「カイトです!
ムトゥ将軍の代理で指揮をしていましたが……あなたのような凄い人が味方で、本当に心強いです!」
グイグイくるな、お前。
俺は男に興味ないんだよ。
「あぁ、そう。ありがとう。よろしくね」
優しい俺は握手してあげた。
まだなんか言ってくるが、後でね。
しつこいとモテないぞ!
カイトに愛想笑いを返したが、いたいた。
「ウィズ、捕まえたアレどうなってる?」
「捕虜の二人なら、お前の指示通り回復薬を飲ませて縛ってあるぞ」
ウィズが顎で指した方向を見ると、
「元気そうじゃないか、二人とも」
向こうにフリチン丸太が仲良く二つ並んでいた。
戦争の開幕戦は、俺たちの勝利だよな?
だが油断はしない。
戦いは、まだ始まったばかりだからな。
「明日からの戦いに備えて、今日はもう寝る!
家に着くまでが戦争ですからね、注意を怠らないよう気を付けてください!」
みんなにそう言って、俺は少し休ませてもらう。
ヴァルファ帝国軍も偉そうなのがいなくなって大変だろうね。
驚くくらいにうまい事行ったが、このまま終わってくれたら良いのだが。
兎に角、王様との約束を守れるように、明日も頑張っていこう。




