67話 王の願いと国の命運
拉致られたが、何が目的だ?
いくら俺が可愛いからって、そういう事なのか?
身持ちは固い方だぜ、俺は!
ラガス城――
騎士団に拉致られた俺とカイ。
なんか、やたら豪華な部屋に俺とカイは通され「ここで待て」とだけ言われた。
……いや、なんで城に?
そんな事より、俺が帰ってこないからみんな心配しているだろうから今のうちに家に連絡をしておいた方がいいな。
城にいるって言ったらびっくりするんじゃないか?
「レイラ、聞こえるか?」
俺は魔導ブレスレットに話しかけた。
レイラも俺の声が聞けて安心できただろう。
『あ、ヒロシ? どこにいるの? 昼いるの? いらないの?
用意があるから、遅いなら出かける前に言ってもらわないと』
返ってきた言葉が昼ごはんの用意の心配とは。
愛する旦那が帰らないのに、それなのか?
「ごめん、すぐ帰るつもりだったから。
いや、そういう事じゃなくてだな、俺とカイだが、今この国の城に連れてこられたんだが」
『あ、そう。迷惑かけちゃダメよ。
お昼食べてくるの?』
「適当に食べて帰るから、お昼は気にしないでいい。
そうじゃなくてだな、俺達が城に――」
『わかった。こっちは何か簡単なもので済ませるわ。じゃーね』
一方的に通信を切られた。
夫が拉致されたっていうのに、緊張感がない会話に終始したな。
カイを見ると、なんか気まずそうにしている。
俺が悪いのか?
「あ、あの……僕が、やってみますね」
俺と目が合って気まずかったのか、カイが魔導ブレスレットに話しかける。
「ウィズ?
カイだけど聞こえる?」
『……』
「ウィズ?」
『……』
「おいウィズ何かあったのか?
ウィズ?ウィズ、ウィズ!」
『うるせーな! 今忙しいから、後にしろ! 以上!』
ウィズの怒声が響いて通信が切れた。
カイが呆然と魔導ブレスレットを見つめている。
俺は、そっとカイの肩に手を置いた。
お互い扱いが、俺たちって……
二人して微妙な気分になっている時にドアが開いた。
あの女騎士だ。
取り敢えずは敵対しているような雰囲気は無いようだが、まともな奴なら拉致なんてしないだろう?
油断しないように気を引き締める。
「先程は失礼した。
私の名はラフィス・ラガス。この国の王女だ。
……貴様のような者を城に入れるのは本来なら許されぬが、事情が事情だ」
王女?
お姫様が騎士の恰好して、善良な俺たちを拉致るとはいい趣味してるぜ。
なめんなよ。
「俺はノガミ・ヒロシ!
実業家にしてランク急上昇中の注目のパーティー『軽キャンクラブ』をまとめる冒険者だ。
こっちは仲間のカイ」
俺は胸を張って答えた。
「ふーん」みたいなリアクションしやがって。
恥ずかしいじゃねぇか。
「ではヒロシ、父に会ってもらいたい」
は?
え?
ああ、そういうことか。
「ごめんなさい、俺は既婚者なので……」
俺は丁重に頭を下げてお断りの――
「……いや、何を言っている?
お前が結婚しているからなんだと言うんだ?
いいから、一緒に来てくれ」
ラフィスが呆れたように言い、部屋を出ていく。
何だよ、強引な女だな。
「カイ。
嫌な予感しかしないが、このままだと帰れないし行こうか」
「そうですね」
俺たちはラフィスを追って長い廊下を渡り、王のいる謁見の間へ。
立派なドアを両サイドの衛兵が押し開く。
ラフィスが進む後をついて歩くと奥にいる王様の前についた。
「お父様、ノガミたちを連れてまいりました」
ラフィスがそういうと横に歩いていく。
いや、俺たちを放置して行くんじゃない!
どうすんだ、コレ。
頭下げればいいの?
何すれば正解なんだよ?
カイは?
駄目だ。
カイもどうしていいかわからないみたいでこっちを見てる。
「ほう……お前達がムトゥ将軍のケツに……プププ」
戸惑っている俺に王様が笑いをこらえながら言った。
ああ、あの時のアレの件で呼び出されたって訳なのね。
納得してスッキリはしたが、殺させるんじゃねぇだろうな。
「で、俺に何か用? 処罰する気?」
一応聞いてみる。
カイを見ると……恨めしそうな顔で俺を見るんじゃないよ。
(しょうがねぇだろ、やってしまった事を今更なしになんてできないだろ!)
(ノガミさんが、余計な事をするからこんな事になってるんですよ)
(お店に連れて行ってやったのに、そんなふうに言うのか?)
(それとこれとは話が違いますよ!)
(俺が悪いのは理解してるよ、済んだ事をグチグチ言いやがって)
「あー、その辺で」
小声で言いあってたが、聞こえてたのか王様に止められた。
「処罰などではないので心配は要らぬ。
率直に言おう。
お前の力、戦場を駆け抜けムトゥ将軍らを蹂躙したあの力を我が国に貸してほしいのだ」
王様が頭を下げてきた。
なんだよ、殺されるのかと思ってビビってたけど、頼み事したくて拉致って来たって訳ね。
いや、最悪な呼び出し方。
とんでもねぇな、全く。
「俺の力を借りる? で、その対価は?」
「いくら欲しい?」
「王様、俺はノガーミ商会のノガミだよ。
悪いけど、金ならこの国より持ってる」
「ううむ、そうなのか?
って、お前はノガーミ商会の人間だったのか。
リバーシも飽きてきたから、他のゲームないのか?」
「双六とか、なんかボードゲームも出してるから取り寄せればいい、って話が逸れてるぞ王様。
対価の件だけどさ、ゼノス王国の支配下に入るか、同盟結んでよ」
「流石に支配下に入るのは無理だな。
……ただ、同盟であれば。
だがゼノス王国に何のメリットが?」
首をかしげている。
本当にしょうがない王様だ。
「バカだねぇアンタ。
平和にならないと商売だって安心してできないだろ?
同盟や支配下ならゼノス王国と敵対しないって確約になるでしょうが」
「フッ……フハハハ!
面白い奴だな、お前!」
なんなの?
突然笑い出したんだけど。
うわ、立った。
「よし、決めた!
ワシはヒロシの言うことを信じる!」
そうか。
いや、マジか?!
俺の与太話で?
「ヒロシ、お前が見事ヴァルファを倒すことができれば、
この国はゼノス王の支配下に入ろう!」
「……は?」
自分で支配下に入ってとは言ったが、マジかよ。
勝手にそんな。
王女も驚いてるし。
ほら、部屋がざわついてる。
こんな状態だけど、大丈夫なの?
王様は一度、深く息を吸い――
「王の威厳なんぞ、国が滅びれば意味をなさぬわ」
そう呟いてから、玉座を降りて俺の前に跪いた。
「え?!」
王様が俺の前で跪いてるけど、大丈夫なのか?
凄く不安なんだけど。
俺、殺されるんじゃないの?
「ちょ、ちょっと、立って。
王様?
……なんだか良くない事をさせてる気がする。
周りの目を考えて!
どうしよう?」
「頼む、ヒロシ! この国を救ってくれ!」
王様が床に頭をつけて……
「陛下、おやめください」
「お父様」
周りから声が上がる。
「うるせぇ!」
俺は、ざわつく周囲に一喝した。
黙れ。
「王様、立って」
王様の肩に手をやって、立たせた。
「こんな俺みたいなチンピラクソ野郎に頭下げて……
恥や屈辱を超えて……男が国を憂いて、頼んだ頼み。
そんな頼み、断れねぇよ。
心配すんな王様。
俺に任せとけ」
「おお、ノガミ殿。
やってくれるのか、ありがとう」
王様が涙を流して何度も頷いている。
もう国としていっぱいいっぱいだったんだろうな。
だが……やってしまった。
「娘のラフィスをつける」
何を言い出してるの?
まあ、前の俺なら大喜びだが、今は柄にもなく責任を背負ってしまったので、それどころじゃない。
・
・
・
城門前――
俺は足取り重くラガス王国が用意した馬車に乗り込む。
「大丈夫なんですか……?」
カイが小声で聞いてきたが、知らねぇよ……
馬車には俺とカイが並んで座り、向かい側にラフィスが座っている。
俺たちの家に向けて馬車が走り出した。
・
・
・
馬車が揺れる度、ラフィスの胸が揺れる。
「ムトゥを倒し、敵軍の将も倒したらしいな?」
話しかけられた。
胸を見てるのがバレたのか?
「まあな」
「お前を見ていると、とてもムトゥに勝てるとは思えんが」
良かった!
どうやら胸を見てたのバレてないみたい。
「ムトゥとやらが戦場でどうなった?」
ニタニタして聞いた。
お姫様って本当に可愛いね。
「裸にされて、丸太に括り付けられたと聞いている」
「それから?」
「……棒で刺された」
「どこにだ?」
「そ、そんな事、なぜ言わねばならぬ!」
ラフィスが立ち上がり叫ぶ。
その時、馬車が止まり、その衝撃でラフィスが倒れてくる!
「あぶねぇ!」
ラフィスが俺に抱きつく形に。
鎧を着たままでタックルされたから、重いし、衝撃でかなり痛いぞ。
早く帰って回復薬(小)を飲まなければ。
「く、苦しい。
は、早く、どいて~」
俺が苦しんでいる、この時に馬車が止まった。
もう着いたのかな?
「着きましたね」
カイはそう言うと、さっさと降りていく。
助けてくれないのかよ?!
俺も降りたいが、ラフィスが邪魔!
早くどいて。
――その時。
レイラが歩いてくるのが見えた。
「ヤバい!
女と抱き合っている状況をレイラに見られたりなんかしたら!」
俺は抱きついているラフィスを、必死に前の席へ押し戻した。
ヤバかったが、間に合ったぜ。
城から無事に帰還できたのに制裁で半殺しにされたらたったもんじゃない。
とっとと、馬車を降りよう。
レイラと熱い抱擁を――
「お尻に、固くて太いのを入れられたの!」
馬車の中からラフィスが叫ん――こんな時に何を言い出す?!
「さぁ、言ったぞ! どうだ!」
ラフィスをからかった質問の答えを、こんな最悪のタイミングで……
「お、おう……」
ぎこちない笑顔で返事を絞り出して言ったが、外を見るとレイラが俺を睨んでいた。
「レ、レイラ。 違うんだよ!」
今回は本当に違うから困る。
レイラが笑いかけてきた。
「ヒッ!」
怖ーーッ!
いや、平常心だ。
ちゃんと言葉で説明して誤解を解いたらいいんだよ。
「や、やあ、レイラ、ただい――」
バチーーン!!!
あれ?
空が下に、地面が上に。
世界が俺を中心に回って――
違う!
俺が回転しているんだ!
グルグルグルーー!
ビダーーン!!
加速して地面に叩きつけられた。
芸術点が高いのだろうが、立ち上がれない。
こんなクソ野郎に頭を下げるなんて、屈辱的だったかな王様。
真摯な態度には、真摯に答える男。それが俺だ。
そして……
今回俺は悪くない!




