第113話 軽キャン、スゲェな
カイの救出に急がねば!
水中なら残された時間はわずかだろう!
待ってろ、カイ。
助けに行くから頑張るんだぞ!
カイが海に引きずり込まれた——
その一言で、俺の頭の中のスイッチが一気に切り替わった。
遊びモードから、救出モードへ。
俺は軽キャンに飛び乗り、カーナビを叩く。
「飛行モードォーー!」
軽キャンのボディがガコンと変形し、左右に翼が展開した。
まるでロボットアニメの変形シーンだ。
「どうなるの?」
「飛ぶんだよ!」
アクセルを踏み込むと、軽キャンがふわりと浮き上がった。
浮いた。
飛んだ。
空に出たぁーー!
(飛行モードだから飛ぶのは当たり前なんだけど、実際に飛ぶとテンション上がるだろ!)
「車の免許で飛行機を運転していいのか?
いや、でも、これ車だし……なら、問題ないじゃないか」
「なに訳の分からない事いってるのよ」
いや、大事なことだろ。
これだから、キャスカは。
本当にどうしようもない――
「って、キャスカ?」
「遅っ!
会話してたですわ!」
確かに。
「私もいるそ」
ミロース?
「あの、私も」
ライカ、お前もか!
「お前ら、どうして軽キャンにいるんだ?
何してたんだよ?」
「ジュース飲んでた」
ミロースがストローを咥えたまま言った。
(お前ら……緊張感ゼロか)
まぁいい。
今はカイだ。
俺は上空から海を見下ろし、必死にカイの姿を探す。
「どうしたの?」
キャスカが聞いてくる。
「カイが海に引きずり込まれた!
モンスターの仕業っぽいから、海に異変があったら知らせろよ!」
「了解!」
キャスカが真剣な顔になった。
(キャスカがいてくれて助かる。
優秀な俺の仲間だからな)
「……しかし、飛んでるってのに、お前ら落ち着いてるね」
軽キャンが空を飛んでるんだぞ?
普通もっと驚くだろ?
「だって、たまにミロースに乗せてもらって飛んだり、私も飛べるから、飛ぶのは慣れてる。
大体、あんたの事でいちいち驚いてたらキリがないわよ」
「……」
(俺、そんな扱いなの?
いや、まぁ……否定はできないけど)
「ヒロシ、あそこブクブクなってる」
ミロースが指差した先、海面が泡立っていた。
「でかした、ミロース!
確かにそれっぽい。
突っ込むから、みんなつかまってろよ!」
「は?えっ? 突っ込む?!」
「なんだキャスカ、驚いたのか?
やったぜ!」
「やったぜ!じゃないわよ!
何考えて、危ないですわ!」
「ハハハ、バカだな。
たぶん大丈夫だよ」
「たぶんって、正気?!」
うるさいので、無視。
俺は軽キャンを下降させ、潜水モードに切り替える。
翼が収納され、車体が密閉されていく。
へえ、こうなるんだ。
潜水するのに水が入ったら大変だからか。
「落ちる、落ちてる!
危ないって!」
(何しやがる!)
キャスカが俺の首を絞めてくる。
ぐ、ぐるじいぃ……
「やめろキャスカ、ヒロシが死ぬ」
ミロースがキャスカから助けてくれた。
「操縦できないだろう、キャスカ。
失敗して死んだらどうすんだ!」
「死?!
ひぃぃぃぃ!」
ライカが泣きそうな声を出す。
「ライカ、落ち着いて、たぶん大丈夫だから安心して!」
「「ぎゃあああああ!」」
安心させようと言ったのに、キャスカとライカが悲鳴を上げた。
海面が迫る。
みんなの悲鳴が最高潮に達した瞬間――
ドッボオーーン!
轟音と巨大な水しぶきを上げて、軽キャンは潜水艦のように海中へ突っ込んだ。
少し衝撃があったが、シートベルトしてるし大丈夫だった。
浸水なし。
視界クリア。
水中推進も問題なし。
(飛行に水面への追突ショックの軽減、そして潜水機能……
軽キャン、マジでスゲェな!女神の加護あって本当にラッキー)
俺は水中を進みながら、魔導通信でカイに呼びかける。
無事でいてくれよ……
「カイ! カイ! 返事しろ!」
返事はない。
遅かったか。
(いや、水中で喋れるわけがない。
落ち着け俺。
俺までパニックになってどうするんだ)
そもそもの話に気づいたのは良いが、どうしたらいい?
ん?
海の色が、さっきまでより暗く見えるような……
ゴゴゴゴ……
「ヒロシさんアレッ!」
ライカが震える指で前方を指した。
「うん」
俺も見た。
海の闇の中から、巨大な影がゆっくりと姿を現す。
長い触手。
丸い胴体。
ギョロリとした目。
「でっか……!」
キャスカが呆然と呟く。
「……クラーケンってやつだよな、アレ」
「ヒロシ、カイだ!」
ミロースが叫ぶ。
「どこ?!」
ミロースが指さしてる先に視線をやる。
「いた!」
(間に合った!……よね?)
クラーケンの触手の一本に、カイがぐるぐる巻きにされていた。
デカい。
どうするんだ、あんなの相手に。
……泣き言を言ってどうなるよ!
兎に角、行動あるのみ。




