第112話 青い水平線
次の日だが、俺たちは、まだ海にいる。
まだ、海にいたのか?
遊ぶのか?
そう言った読者諸兄の疑問もあろう。だがそれは、早計と言うものである!
遊ぶことも訓練の一環である!
遊びを通して体を、そして精神を鍛える!
なんと、合理的かつ完璧なシナリオ。
……と、これ以上ない完璧な説明がすんだので、さっそく本編に入ろう。
Don't think, feel
海、二日目ッ!
朝早く、薄暗い海辺。
軽キャンクラブのメンバーが、軽キャンの変形機能で作った家から続々と出てきた。
みんな昨日の水着の上にパーカーやTシャツを羽織り、眠そうに目をこすっている。
釣り人の朝は、早いのだ。
「変形解除!」
家が消え、軽キャンが姿を現す。
運転席から降りた俺は、後部のサイクルキャリアに固定したアイテムボックスから釣り竿を取り出した。
「では、今日は釣った魚で宴会だ!
豪華な宴会は諸君らの働きにかかってるからな!
各自、真剣に、楽しく、怪我の無いよう気をつけつつ頑張るように!」
俺の開会の挨拶に、みんなは釣り竿とバケツを持って散っていく。
(頼んだぞ、みんな……宴会もそうなのだが、豪華な朝食もかかっているんだからな)
キャスカ・ミロース・ライカの三人には岩場が危ないと俺が判断して浅瀬で貝拾いを指示した。
「キャスカ二人を任せたからな。
何かあったらすぐ魔導通信で連絡しろよ。
後、くれぐれも深くなってる所には近づくなよ」
「了解、ミロースとライカの事は任せて」
「頼んだぞ!
無理しないで良いから気楽にな」
奴らには期待していないので、怪我なく無事でいてくれたらそれでいい。
浅瀬で遊んでてくれた方が安心できる。
俺は釣り竿片手に、みんなの様子を見に行く。
ちゃんとチェックしないと、サボってる奴がいるかもしれないからな!
一番サボる男、ヒロシは自分を棚に上げて監視行動を開始するのだった。
岩場の方では、レイラとフィリーがシュノーケルをつけて素潜りをしていた。
「レイラーー!」
俺は岩場の上から呼び掛ける。
「なにーー?」
水に浮かびながらレイラが返事をくれた。
「無理すんなよー!
それと、ウニがあったら取ってきて!
黒いトゲトゲの奴ね!」
「わかった! 探してみるねーー!」
レイラが俺に手を振って潜っていく。
フィリーは浮かべた桶につかまりながらレイラの様子を見守っていた。
二人いるから大丈夫…… だよな?
無理して事故とか……いやいや、そんな不吉な事は考えない!
でも、本当に危険とか大丈夫だよね?
良くない事を考えてると、どんどん不安になってくる。
(俺のせいで無理してたらどうしよう……)
不安と後悔に心臓を鷲掴みされてるみたいに苦しい。
「……長くないか?」
レイラが潜ったっきり、上がってこない。
ウニなんて、俺は、本当に余計なこと言わなきゃよかった。
慌てて岩場から駆け出そうとした時、レイラがデカい貝を抱えて浮上した。
「良かった、無事か!」
レイラは貝を桶に入れると、今度はフィリーが潜る。
安全に作業できるように二人で考えたのだろう。
俺の奥さんは、俺を悲しませるような事はしない。
ちゃんと考えて行動してくれてる。
「レイラーー!
安全第一だからなーー!」
レイラが手を振って答えてくれた。
ウニにも期待しつつ、俺は他のメンバーの様子を見に行く。
カイとバンは釣りをしているが、まだ釣れていないようだ。
始まったばかりだから焦る事は無いが、諦めずに頑張れ!
二人の邪魔しないように声をかけずにその場を離れた。
少し進むとウィズとユリスが岩場の影に消えた。
「何してんだ?」
二人の後を追ったが……岩場の向こうからウィズの声とユリスの声と荒い息遣い。
「……釣り、じゃないよな」
(朝から元気すぎるだろお前ら)
邪魔しないように、俺は静かにその場を離れた。
「まったく、ウィズもユリスめ!
みんなで頑張って食材集めしてるってのに、そういう事しか頭にないのか!」
清純派の俺が呆れて歩いていると、ルファスが真剣な眼差しで釣りをしていた。
不真面目な人間の後だから、いつもより良く見えるぞ。
「ルファス。
ちゃんと真面目にやってくれてるな。
って、引いてるじゃねぇか!」
ルファスの加勢に走り出す!
ガッ!
ルファスの近くに落ちていた網を手に取る。
「デカそうだな! ルファス!」
「かなり……
くっ!
引きが強いです!」
顔を歪めながら竿を操るルファス。
「でかした!」
流石、お前は他の奴とは違うぜ!
ルファスの懸命の格闘の末、水面に魚影が見えてきた。
俺は網を構える。
「もうちょっとだ! 頑張れ!」
魚影が――
水面が割れた瞬間、俺の心臓も跳ねた。
「そこーーッ!」
俺は網で魚を掬い上げ、って、重っ!
「ノガミさん!」
ルファスが網の引き上げを手助けしてくれた。
いける!
「よっしゃぁーー!」
ザバァーー!!
大物を釣り上げたぞーー!
いや、俺は釣ってないけど。
協力したので達成感がある。
いい経験になった。
足元では、60cmはある大物がビチビチと跳ねている。
「ルファス、凄いの釣ったな、お前」
「ノガミさんがちょうど来てくれて助かりましたよ」
「そうだ。
こいつを軽キャンに持っていって朝飯に食おうぜ」
「豪華な朝食になりそうですね!」
ルファスが嬉しそうだが、俺も嬉しい。
みんなも、そして、レイラ、プロム、ミロース、俺の奥さん達もきっと喜んでくれる!
「プロム?」
……そういや、プロムの姿が見えないな?
「ルファス。
プロムを探しにいってくるから。魚の運搬を頼む」
「プロムさんなら、向こうの岩場に行きましたよ」
「そうか!
ありがとうルファス。
行ってみるよ」
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ルファスに教えられた方へ向かうと、プロムが釣り竿を横に置いて座って海を眺めていた。
釣り糸は波に揺られているが、当たりはないようだ。
「プロム、疲れた?」
俺は隣に腰かける。
「旦那様。
ほら、朝日ですよ」
プロムが指差す先、水平線から太陽が昇っていた。
神々しく綺麗だ。
「なんか感動的だよ……な……」
振り向くと、朝日を浴びたプロムがいた。
いつも綺麗だが、朝日に照らされキラキラしているプロムは、いつもに増して綺麗だ。
そうか、朝日より眩しいのが、プロムの笑顔だからなんだ。
その事実に気づいた瞬間、胸がドキドキした。
俺はプロムの瞳に吸い込まれるように……気づいたら唇を合わせていた。
プロムは驚いた様子だったが、俺の腰に腕を回してきた。
デカい。
……いや、みんな食材集めを頑張ってるのに、そんな。
凄いな、胸が邪魔して手が回りきらないんじゃないのか?
駄目だ。
が、我慢できないっ!
「プ、プロム……」
俺はプロムの手を引き、岩場の影へ。
そして――
「綺麗だよ、プロム……」
「ヒロシ様、プロムは、ヒロシ様を……」
俺達は、一心不乱に互いの気持ちを確かめ合った。
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結構燃えた。
心地よい疲れの俺達は軽キャンに戻ってきた。
爽やかな気持ちだ。
これが満ち足りてるって奴か?
うん。
運動して腹が減った。
ルファスの釣った大物もあるし、朝食が楽しみだ!
「ん?」
ルファスが大物を一生懸命さばいていた。
「おい、ルファス大丈夫か?」
声をかけると、泣きそうな顔でこちらを見る。
「ヒロシさん、遅いですよ!
誰もいないから自分でやってるんですが、難しいです」
まな板の上の魚は、変な風に包丁が入り、悪戦苦闘の跡が刻まれていた。
勿体ない……
だが、一生懸命頑張ったのが伝わってくる。
「遅くなって悪かった。
ルファス、一人で大変だったな。
ここからは、俺が代わるから」
「お、お願いします」
相当不安だったんだな。
戦闘だとあんなに強いのに、子犬みたいに……
俺に任せとけ。
「そんじゃ、プロム。
軽キャンから水をバケツに汲んできて」
「わかった!」
俺は鱗をガシガシ取る。
「あれ、プロムさん、シャツ前後ろ逆ですよ」
ルファスが余計なことに気づかないように!
プロムは真っ赤になり、超乳をブルンブルン揺らして軽キャンへ走っていった。
「ノガミさん前かがみになって、どうかしましたか?」
「いや、別に、大丈夫ですんで」
先程の愛の行為を思い出してしまった。
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水が用意された。
「炊飯の様子はどうだ!」
「炊飯器のスイッチ、入っています!」
ルファス、成長したな。
「よしっ! プロム、捌いてるから水かけてて!」
水をかけてもらいながら三枚に卸し、皮を剥ぐ。
一つは刺身、一つはバター醤油焼き、アラは味噌汁だな。
「うおおぉぉぉ!」
声とは裏腹に繊細な作業を進める。
実家が海の方だったから、魚を捌くのも慣れてる。
全くモテず、独身生活が長かったから料理はそれなりに出来るんだよ、俺は。
当時は、彼女が出来た事がなくて悲しかったが、そのおかげで料理も身についた。
そう考えると人生無駄な事など無いな。
朝食が完成し、ルファスにみんなを呼びに行かせる。
その間にテーブルや椅子を用意する。
その間にプロムに漬物を切ってもらう。
準備完了。
「みんな喜んでくれたらいいんだけど」
今日の朝食は和食だ。
魚のアラの味噌汁の香りで腹が鳴る。
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「いっただっきまーーす!」
全員そろったので、朝食開始。
「みんな冷えたろ? みそ汁を飲んで体を温めたまえ!」
「恩着せがましいわね~」
そう言うが、キャスカがお代わりしてくれた。
「大げさに言うくらいが丁度いいんだよ。
誰も、褒めてくれないから」
「私は、ヒロシを褒めるわよ」
流石、レイラ。
厳しい時もあるけど、たまに褒めてくれる。
しっかり者の俺の奥さん。
「ヒロシ様はいつも素晴らしいです」
プロム、嬉しいけどいつも褒めすぎだから。
優しい俺の奥さん。
「おかわり」
ミロースは……そういうところも全部好き。
可愛い俺の奥さん
考えてみると、嫁さんたちには料理をするが、軽キャンクラブのメンバーにってめったにないな。
みそ汁がみんなに好評で、作って良かったと嬉しくなったし、たまには料理しようかな。
食べ終えた者から釣りに戻っていく。
釣れた魚はキャスカ達が遊んだ浅瀬を改良した簡易生け簀へ。
「ぎゃはは、魚、魚!」
「……」
何が楽しいんだキャスカ。
まぁ楽しそうだからいいけど、もうちょっと可愛い感じで喜べ。
一応皇女だったんだろ、お前。
俺とプロムは後片付けを終えると、コーヒーを淹れた。
愛する妻とまったり過ごす時間もいい。
波を見ながら飲むコーヒーは旨い。
隣のプロムを見る。
ゴクッ
「あのさ、プロム……なっ?」
プロムの手を握って同意を求めると、笑顔で俺を見てくれた。
「そ、そしたら、静かな場所に――」
あっちへみんなが移動したから、こっちか!
人がいたら落ち着かないからね!
「行こう、プロム」
ドボーン!
「なんだ?!」
「みんな!カイが!」
バンの叫び声だ。
あっちでカイが海に落ちたのか。
俺とプロムは忙しいからな。
さ、静かな場所でしっぽりと、って冗談言ってる場合じゃない!
「行くぞ、プロム!」
俺たちはバンの元へ走った。
「どうした?!」
岩場の上から海を覗き込むバンに聞く。
「ヒロシ、カイが海に!
突然、海から出てきた何かに引き込まれたんだよ!」
バンが慌てて気が動転しているようだ。
と・に・か・く!
「落ち着け!」
ビンタしてバンを正気に戻す。
さっきまで穏やかだった波が、急に冷たく見えた。
「プロム、魔導通信でみんなに海から離れるよう指示!
俺は軽キャンで救出に向かう!」
俺は走りながら叫んだ。
海の楽しい朝食が済んだら、事件だ。
カイ、今助けてやるから頑張るんだぞ。
軽キャンの機能のチェックも兼ねて人命救助といきますか!




