第108話 謎の街
今回、街に到着する。
長い道のりだった。
変な集落もあったが、それも楽しい旅の思い出だ。
悪党に乗っ取られた集落を出発して、街道を延々と走った俺達。
ようやく――念願の街が見えてきた。
ちょっと街まで行ってきます的なノリで出てきたのに、こんなに時間がかかるとはな。
まぁ、道中は楽しかったし良しとしよう。
街は立派な壁に囲まれていた。
こんな場所に、こんな大きな街があるなんて知らなかった。
(世界は広いな……知らない土地を知るのって、やっぱ楽しい)
日本にいた頃はインドア派だったくせに、知ったような事を思うヒロシであった。
軽キャンとキャンピングカーが門へ近づくと、大きな門がゆっくり開く。
門番は肌の黒い兵士。アフリカ系の人みたいだ。
レイラ達のような白い肌の人ばかり見てきたから、新鮮だし懐かしい気持ちになる。
それに――黒人女性、特にムチムチしてて尻のでかい女性も大好きなんだよな!
大好きと言っても、会話などした事無い。
動画で見て綺麗だなって思っただけだ。
冒険者カードを見せると、あっさり通してくれた。
物々しい警備の割に緩い。助かる。
街の中は人で賑わっていた。
行き交う人はほぼアフリカ系。
異文化感がすごい。
「結構、人がいるわね」
「そうだね」
レイラが言うように結構人が多い。
慎重に運転しながら街を抜け、建物が少なくなったところで軽キャンを駐車。
変形させて拠点の家を出現させた。
「さて、着いた事だし今日は、到着お疲れ様記念にみんなで食事に行こうか!」
みんなは嬉しそうにシャワーだの服だの言いながら部屋へ散っていく。
俺とウィズとバンはめんどくさいのでこのままの格好で行く。
(……見た目は若いけど、中身はおっさんだな俺は)
「ここに来るまでにレストランみたいの何軒かあったよな?」
ウィズに聞いてみた。
「そんなの覚えて無いけど、どうせなら旨い店に行こうぜ」
さっき通った道の事も忘れるのか……
だが、旨い店ってのは賛成だ。
ただ、初めての街で旨い店なんて分からない。
人数も10人超えの団体だし、予約した方がいいのでは?
(……いや、悩んでも仕方ない! 行動あるのみ!)
「バン、みんなが戻ってきたら待っててもらってくれ。俺が先に行って店決めてくる!」
俺はルファスのキャンピングカーに乗り、街へ戻った。
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ブロロロローー……
窓の外を、いろんな店が流れていく。
「あれなんか良いんじゃない?」
高級そうな飲食店が目に飛び込んできた。
俺はすぐさま店の前にキャンピングカーを横付けし、勢いよく店へ――
……入ろうとしたところで、ゴツい黒服に止められた。
(走って突っ込むとか、俺とした事がマナーなってなかったわ)
「あー、すまんすまん。予約をしたいんだが、全部で……えーと、12名なんだが、席を用意できるかな?」
「なんだお前、お客さんか!
てっきり強と……ちょっと待ってろ、今、店の人呼んでくるから!」
(おい黒服。今『強盗』って言おうとしたよな?
それは、あまりにも失礼な話だろう。
いや、聞かなかった事にしよう。
俺も大人だし、アイツ腕っぷしが強そうだから)
大人しく待っていると、黒服が身なりの整った男を連れてきた。
「お待たせいたしました。
私はこの店を任されておりますアジョアと申します。
本日はご予約との事ですね。どうぞこちらへ」
丁寧に中へ案内しようとするアジョアに、俺は手を振った。
「あ、ここでいいよ。
今日、12名入れる時間ある?」
中に入ると長くなる。
さっさと終わらせたい俺は、入口で用件を伝える事にした。
「そうですね……
あと2時間ほどいただければ」
申し訳なさそうに言うアジョア。
いやいや、当日予約をねじ込んだのはこっちだし、むしろ助かる。
「2時間ね。
それで問題ないから、軽キャンクラブ御一行様で予約入れといて」
「承知しました。では、お迎えに馬車を用意いたしましょうか?」
「おっ、気がきくね。
酒も飲むし頼むよ!
場所は、この道をずーっと行ったところにある家。
こいつ(キャンピングカー)停めてるからすぐ分かると思う」
「かしこまりました。
失礼ですが、お名前を頂戴しても?」
「あー、俺?
ノガミ。
ヒロシ・ノガミだ。
っと、これ先に渡しとくから。
足りない分は食事の後で払うよ」
俺は金貨を12〜13枚ほどアジョアに渡した。
(名前聞くのは支払い心配だからだろ?
多めに渡してやるから安心しろ!)
「ありがとうございます。
こちら、預かり金の控えでございます。
では、ご来店を楽しみにしております」
控えを受け取り、深く頭を下げるアジョアに軽く会釈して、俺はキャンピングカーへ戻った。
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「え? 馬車が迎えに来るの? 凄い!」
ユリスとライカが驚いている。
確かにサービス満点だ。
(まぁ、その分金払ってるけどな。
フフフ、お金持ちの俺に感謝しなさい)
高そうな店だし身なりくらい整えて行こうと思い、シャワーへ。
バンとウィズは既に着替えてビシッとしているし、急いで入ってしまおう。
みんなの準備が整い、馬車を待つ間――
プロム、レイラ、ミロースがシャワーから出た俺の体を拭いてくれる。
(優しい嫁達だ……ゴシゴシ……シコシコ……)
「……」
(うん。
そこまで急ぐ必要はないな。
奥さん達とのふれあいより重要な要件など、この世に無い)
「レイラ、プロム、ミロース」
みんなでシャワーに一緒に入ろうと思ったが、用意の済んでいるレイラ達に怒られた。
迎えの時間があるのに、流石に無理があったか。
俺は、大人しく体を拭いてもらった。
そんなこんなで、身支度が終わったころには、みんなや馬車を待たせていた。
バンに怒られつつ馬車へ乗り込む。
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馬車が三台、高級レストランの前に停まった。
「停まったな。みんな、到着したようだぞ! 忘れ物がないようにな」
俺が言い終わるより早く、黒服達が馬車のドアを開けてくれた。
店の前で待っていたアジョアは、いつもの富裕層の来店迎えるつもりだった。
だが――今日の光景は違って見えた。
(……なぜだ?)
馬車から降りてくる客は、確かに皆、高級な衣装を身にまとい、アクセサリーも眩しい。
この店には貴族や大商人も来る。
豪華な客など見慣れている。
なのに、違和感がある。
(あのノガミとかいう下男のせいだな。
下男にしては態度がデカいし下品…… 雇い主の苦労が偲ばれる)
アジョアがそんな事を思っていると――
馬車の奥から、二人の人物が降りてきた。
「……彼らか!」
アジョアは確信した。
違和感の正体は、この二人だ。
金髪の青年と、その妹らしき少女。
立ち居振る舞いが洗練され、生まれながらの気品が滲み出ている。
(貴族ではない……
もしや、王族の類か!?)
アジョアの背中に冷や汗が流れる。
さらに、ゴブリンやオーガの娘までいるのに、なぜか全員が清楚で美しい『レディー』に見える。
(身分や種族に囚われない、なんと気さくで器の大きい御方か!)
アジョアはルファスを畏敬の念を込めて見つめた。
(あの下品なノガミという下男にまで、高級な服を与えている……
本当に、若いのに立派なお方だ……!)
勝手に感動し、勝手に誤解し、勝手に気合を入れたアジョアは、胸を張って歩き出した。
「ようこそ、軽キャンクラブ御一行様。
お待ちしておりました。
お部屋の準備が整っておりますので、どうぞこちらへ」
アジョアは全身全霊のおもてなしで挑む覚悟だった。
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俺達はアジョアに案内されて廊下を歩く。
(アジョアの野郎、ルファスにばっか話しかけやがって。
……責任者は俺だぞ?
まぁ、会話しなくていいから楽でいいんですけど)
「ん?」
奥のドアの前に、ムッチムチの黒人の可愛い女性が立っていた。
(素敵!ダイナマイト!)
俺達が近づくと、彼女がドアを開けてくれる。
(触りたいが、死にたくない。
嫁の目の前でなど……自殺願望があるわけではない)
「ヒロシ、何してるの? 早く入ってよ」
「ん? あ、ああ、すまん」
レイラに急かされ、俺は部屋へ入った。
◆
「へー、良いじゃん」
中は立派な個室だった。
十二人でも余裕で座れる広さだ。
「それでは、順次料理をご用意いたしますので、何かございましたら、このアダにお申し付けください」
アジョアは、先ほどの黒人女性――給仕のアダを紹介して退室した。
(アダか……可愛いな……
いや、今日は嫁がいるから無駄だな)
俺達は家と同じ並びで座り、ワインが注がれていく。
全員のグラスが満たされたのを確認し、俺はアダを呼んだ。
「いちいち入れてもらうのめんどくさいから、ボトル適当に並べといて」
そう言って、グラスを手に持つ。
「えー、みなさん、長い移動お疲れさんでした。
いつものように無礼講で、本日も大いに飲んで食べて明日に備えてください。
そんじゃ、かんぱ~い!」
「カンパーイ!」
全員が日本語で乾杯する。
俺が教えた。雰囲気が出るだろ、完全な自己満足だが。
料理が次々と運ばれてくる。
(ん?
旨い。
旨いよここ!
ゼノス王国並みに旨いんじゃないか?)
レイラやルファスの方を見ると、やはり驚いているようだ。
ゼノス王国の料理を知っている俺達だから、他国での食事で残念だと思う機会が多い。
それなのに、ここの料理はなんだ?!
「!」
マヨネーズを使った料理が出てきた。
(……ノガーミ商会の物じゃない。
まがい物でもない、普通に旨いマヨネーズ!?
言っちゃ悪いが、こんな田舎に?)
「……この街どうなってんだ?」
美味しいマヨネーズ。
コレだけで、この街が只者ではないと伝わってくる。
(いや、ダメだろ! ノガーミ商会的に!)
感心する俺を、俺の商人の面が現実に引き戻してくれた。
「お、おいっ!
グルジット、後で場所データ転送するけど、マヨネーズを独自開発してる地域があったぞ!
一度調査に人を寄越した方がいい!」
魔導通信で伝えておいた。
(旅に出て良かったぜ。
ノガーミ商会の主力商品に近いか、下手したら超えるマヨネーズ。
世界は広い…… まだ、こんな逸品が隠れていたとはな)
キリっと真剣な顔で考えたのはそこまでで、その後は飲んで食って大盛り上がり。
いつものようにグダグダへ。
高級店も居酒屋も、こうなったら変わらないな。
アダも可愛いし、良い店じゃないか!
うひゃひゃひゃひゃーー!
――そして、酔った。
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帰りの馬車に、俺はレイラとプロムに抱えられながら乗り込む。
気持ち悪い。
飲みすぎた。
風景が歪む。
ネオンが綺麗だ。
日本みたい。
(寿司屋に、赤ちょうちんか……
ふふ、この俺がホームシックとはね……)
揺れる馬車の外、景色が溶けるように流れていく。
「ちょっと待てって!
んな訳あるか!」
(ネオン? 寿司屋? 居酒屋? いや、嘘だろ!?)
俺は目を見開き、立ち上が――
ガツンッ!
馬車の屋根に頭をぶつけた。
「ぎぼちわるい」
レイラが青ざめる。
「御者さん止めて! 止めて! 早く停めろ、この野郎!」
レイラの怒号で馬車が停まった。
外に連れ出された俺は、無様に吐いた。
「うげぇぇぇーー」
「もう、バカね。アナタ飲みすぎよ」
レイラが優しく背中をさすってくれる。
「ご、ごめん」
(俺側にいると汚れちゃうのに……
本当に優しい奥さんだ……)
「明日、二人で街に行こうか」
俺はゲーゲー吐きながらも、さっきの日本的な光景が気になって仕方なかった。
「ホント!」
レイラは、大きな声で言った自分の口を手でふさぐ。
そして、俺の耳元に口を近づけた。
「……馬車の二人には内緒だよ!」
レイラが嬉しそうに笑う。
(こんな事で喜ぶなんて……なんか申し訳ないな)
そして、心優しき誠実な夫である俺は――
浮気の回数を減らす方向で考えようと決意をした。
本当にレイラは優しい奥さんだ。
大事に幸せにしたい気持ちでいっぱいだ。
それと、ネオンに店、日本の香りがするこの街はなんなんだ?!
レイラととのデートのついでに軽く調べてみるか。
最新話まで読んでくれてありがとう。




