第99話 オーガの村、再訪
ゼノス王国を出発した俺たちは、再びオーガの村へと向かうのだった。
オーガの村――
村長のジャックは、麗らかな春の日差しを浴びながら庭で日向ぼっこをしていた。
「村長、こんにちは」
塀の向こうから声をかけられたジャックが視線を向けると、大きな籠を抱えた女性が立っていた。
隣家の女性、ユリスだ。
「ああ、こんにちは。
ユリス、それは洗濯物かい?」
「ええ、干そうと思って」
ユリスは洗濯籠を掲げて微笑む。
「そうかい、ご苦労様。
……ユリス、困ったことがあったら言うんじゃよ」
ジャックが言うと、ユリスは会釈して籠の中の洗濯物を干し始める。
ジャックは平和な時間が戻ったことに胸をなでおろし、再び日向ぼっこを――
「ぎゃあぁあああ! また来たぁ!」
見上げた空にホワイトドラゴンの姿を確認してしまったジャックは叫び、即座に家へ逃げ込み、鍵をかけた。
(もう嫌じゃ……平和を返してくれ……!)
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村長宅・上空――
「ミロース! 村長に挨拶してくるから、そこの家の前に降ろしてくれ!」
「そこだな」
バサッバサッバサッ……
村長宅の前にミロースが降り立つ。
ミロースが人化したが、いつものように裸なので服を着せる。
裸で村長の前にでたら、驚かせてしまうからな。
いくら村を救った英雄の俺たち一行だとしても、常識を疑われるからな。
「よっしゃ、行くぞ!」
村長の奴、俺たちの顔を見たら喜ぶだろうな。
英雄の凱旋だ!って、大騒ぎされるだろう。
やれやれ。
俺たちは暇じゃないってのにな。
ドアをノックする。
「……」
返事がないので、もう一度ノックする。
「おい、俺だ、俺!
村長ー?
ジャック、俺が来たぞ!」
ドンドンやってるが、返事なし。
「おい、留守なんじゃないのか?」
「そんな訳ないだろ、ミロース。
降りるときに、村長の野郎が家の中に入るの見えたんだから、いるよ」
「倒れてるんじゃないのか?」
「それだ!」
ウィズが村長のジャックが倒れている可能性を示唆したが、間違いない!
英雄の俺の訪問を何より心待ちにしている村長が出てこない理由など、それ以外に考えられない。
俺は慌ててドアノブを回す。
ガチャ……ガチャ。
「あれ? 鍵が……」
何故鍵を?
「……そうか」
倒れてるなんて、ウィズの憶測だから見当違いだった、それだけのことなのだろう。
つまり、裏口から外出して留守。
そんなところだろう。
本当にろくな事を考えないな、ウィズって。
「おい、何故俺の顔を見て、ため息をついてるんだ?」
「ウィズ、不謹慎だぞ!
村長のジャックは、倒れてるんじゃなくて、裏口から外出したんだよ」
「いや、お前も『それだ!』って言って……」
ウィズめ。
人のせいにする男らしくないぞ。
キッ!
「なんじゃ、その顔!」
ウィズが怒ってる。
……俺が人のせいにしているって言いたいのか?
村長が不在ならいてもしょうがないな。
仕方ない、時間をおいてまた来くるか。
「食事でもして、後でまた訪問してみよう」
そう言って歩き出したとき、隣家で洗濯物を干すオーガの女と目が合った。
かなりの美形だな。
オーガの女性だから大柄だけど、ムチムチしてて、筋肉質で素晴らしい。
「どうも」
挨拶すると、ユリスが駆け寄ってきた。
「先日は、本当にありがとうございました!」
「は?」
俺がキョトンとしていると、ユリスは涙ぐみながら言った。
「この前のギアの襲撃で主人を失い、途方に暮れていました……
でも、賠償金のおかげで……ありがとうございます。
本当に助かりました」
ああ、そうか。
彼女は、ギアに殺された男の奥さんなのか。
……気まずい。
結局助けれなかったのに、なんて言えばいいんだ?
戸惑う俺の前にウィズが出た。
「すいません……助けられなくて」
ウィズが申し訳なさそうに言った。
そうだよな。
申し訳ないのに、お礼を言われても……
「いえ、あなた達は村のために戦ってくださったのですから」
ユリスは涙を拭き、微笑んだ。
ユリスが涙を拭いて微笑んだとき、
ウィズが一瞬だけ、ユリスの方をじっと見ていた。
(ん? ウィズ、どうした?)
声をかけようとしたら、ウィズはすぐに目をそらしてしまった。
「村長にも挨拶されました? きっと歓迎されますわ」
ええ、そうだと思います。
俺は、頷いて同意したが……
「いやー、村長家に入ったの見えたんですけど、出かけたみたいで留守でした」
「え?
村長、出かけてないと思いますけど?」
ユリスが首をかしげる。
「……」
俺は村長宅を見る。
窓からこちらを覗く村長と目が合ったが、次の瞬間、村長はサッと隠れた。
(あの野郎……俺から逃げる気か?
英雄に対してその態度はどうなんだ?)
「奥さん、ありがとうございます!
ちょっと村長に挨拶してきますね!」
俺は笑顔で言い、ウィズとミロースに向き直る。
「二人はそこの洗濯物を干すの手伝って、奥さんとお話しでもしてて。
俺は村長に挨拶しなきゃいけないから」
ひきつった笑顔で言うと、二人の返事も聞かずに村長宅へと向かった。
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村長宅・窓の下――
俺は身を屈め、窓の下で待機。
居留守を使った野郎とさっき目が合ったから隠れてるんだろう。
窓から中をのぞくことにした。
タイミングを見て――頭を上げる!
バッ!
目の前にいた村長と目が合う。
隠れて無かったようだが、俺が来るのを確認でもしようとしたところだったのか?
「やあ」
俺は笑顔で言った。
村長は固まっている。
真顔の俺が玄関を指さし、目で合図した。
村長は肩を落としてドアの方へと向かう。
俺は玄関へと移動した。
ガチャリ……
「お、おお! ヒロシではないか!
いつ村へ?
ぜんっぜん気づかなかったぞ!」
ドアを開け、汗だくの村長が白々しく言ってきやがった。
「そうか。
ちょっと中で話そうか」
俺は村長の肩を抱き、家の中へと入っていった。
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ユリス宅――
ユリス、ウィズ、ミロースが村長宅に向かったヒロシを見ていると、ドアが開いて村長が出てくるのが見えた。
「あ、村長いたんだ」
ウィズが言う。
「肩なんか組んじゃって、村長と仲良しなんですね」
ユリスが微笑む。
「ヒロシは仲良くなるのが上手いからな」
ミロースが笑う。
離れているためか、とても友好的な雰囲気ではないヒロシと村長の様子になど三人は気づかないでいた。
「村長さんたちも中に入られたみたいなんで、私たちも中でお茶にでもしましょう」
ユリスは二人を家に招いた。
ユリスの淹れたお茶を飲みながら談笑していると、ウィズが時々ユリスの方を見ては、すぐに目をそらしていた。
(……なにやってんだ、コイツ)
ミロースは、ウィズの挙動がおかしいと思ったが、いつもおかしいので気に留めなかった。
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数十分後――
ドンドンドン!
ユリスが玄関を開けると、ボロボロの俺が立っていた。
「いや~村長と盛り上がっちゃって、転んじゃった」
ミロースは(絶対嘘だな)と思った。
村長宅を見ると、同じくボロボロの村長が立っていた。
(何をやっているんだお前は……)
ミロースはため息をついた。
村長と拳で語り合った俺だが、本日の宿を探さなければならない。
トラブルがあったので村長の家に泊めさせてもらうのは不可能だからな。
「今日は疲れたから、宿を探そう」
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宿――
村の食堂の二階が宿になっていた。
宿がない村なんて、ざらだから助かる。
しかも、質素だが個室。
ありがたい。
夕食を終え、各自の部屋へ戻る。
プライベートが確保できるのは大切だ。
一人になりたい時とか、見られたくないような事だってあるかもしれない。
俺は窓を開け、夜風を吸い込む。
(静かだな……ウィズにも良い出会いがあればいいんだが)
賢者タイムの俺がしみじみと仲間の幸せを星空に願う。
コンコン。
ノック音?
「って誰だよ、こんな時に!」
俺は音速でズボンを履き、ドアを開けた。
「あれ?
ミロースじゃないか、どうかした?」
「ヒロシ……」
ミロースの声が少し沈んでいる?
おいおい、本当に何かあったのか?!
「兎に角、中に」
俺はミロースを部屋に招き入れ、ドアを閉める。
「で、どうした?」
「ウィズが、宿から出ていった」
なんだ、ウィズが出て行ったのか。
「って、え!?
何処に?
なんで?」
ミロースが深刻な声を出すから俺は思わず声を上げたけど、子供じゃないんだから心配いらないだろうと思った。
「理由は知らん。だが、お前に伝えておくべきだと思った」
「そっか、ありがとう。
まあ、ウィズも子供じゃないし、ほっといていいんじゃないか?
そうだな……飯食ったし、散歩にでも行ったとか、そんなところだろう」
ミロースは俺をじっと見つめてきた。
何?
そんなにウィズが心配?
いや、成人男性だぜ、アレ。
「……今、何してた?」
「なにが?」
「え?
何って、ほら、ズボン下ろして……」
「やめてくださいお願いします!」
俺は土下座した。
なんで、バレてんだよ!
ちゃんとドア閉めてやってたんだぞ!
目に焼き付いてるミロースの姿を思ってしてたが……
あれか?
その思いが伝わった?
そんな、エスパーじゃあるまいし!
変な汗が出てドキドキする俺に、ミロースは、ふっと笑った。
「する時は、静かにした方がいいぞ。
私の名前を何度もよんでたから……覗いてしまった」
俺は、自分を殺してやりたい。
そんなに没入してたのかよ!
絶対に嫌われた。
レイラやプロムに知られたら、殺されてしまう。
恥ずかしくて死にそうだ。
「気にするような事じゃないぞ、ヒロシも男だからな。
でも、なんで私なんだ?」
……なんでって、そんなの決まってるだろ?
「……ミロース」
俺は思わず抱きしめた。
最初にあったときから好きだった。
そんな好きな女の子供を救えなくて情けなかった。
再会できてうれしかった。
もう、離れたくない。
ミロースは少し驚いたが、そっと俺の背中に手を回してきた。
「ヒロシ。
お前は、本当に……不器用だな」
「お前が好きだ。
俺の嫁になってくれ」
ミロースは一瞬だけ目を見開き、そして小さく笑った。
「……なってやる」
その言い方が、ミロースらしくて愛しかった。
俺は強く思った。
(絶対に大事にする。
守る。
宝物がまた一つ増えたんだ)
ただ――
(レイラとプロムに殺されるかもしれんが……
いや、まあ……なんとかなるだろう!
ミロースが嫁になったことに比べれば、全ては些細なことだ)
喜ばれると思ったが、村長から歓迎はされなかった。
全然平気だ。
なぜなら、ミロースが俺の嫁になったのだからな!
……あれ?
俺はウィズの嫁さんを探すために旅をしていたんだよな?




