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裏方聖女は逃げ出した!~ブラック職場やめます!お洒落なカフェハウスの店長になったので、今更戻れと言われてももう遅い!  作者: 柚屋志宇
第4章 闇のカフェ

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92話 常連メニュー

「妹よ、戻ってティータイムの続きをしようではないか」


 シャックリー伯爵とピエン男爵が平伏低頭して退散すると、ホバート様は良い笑顔で私にそう言いました。


「はい、ホバート様。騒ぎを収めていただきありがとうございます」

「大したことではない」


 大魔法を見せたホバート様は、何でもないことのように涼しい顔で言いました。


(……!)


 視界の端に、シェイラ様、メレディス様、ナタリア様がいることに気付きました。

 私たちより少し離れた場所にいる彼女たちは、こちらを凄い目で見ています。


(シェイラ様たちも外に出て来ていたんだ)


 ホバート様はメレディス様の元婚約者なので、それで騒動の顛末が気になって出て来たのでしょうか。


 敵意に満ちた目を向けられてとても居心地が悪いですが、シェイラ様たちはこちらを見ているだけで話しかけてくる様子はありません。


(ホバート様がいるからかな?)


 ホバート様はスタイン公爵家のご令息です。

 公爵家は貴族の中で一番爵位が高いので、子爵家や男爵家の令嬢であるシェイラ様たちはうかつに話しかけることができないのかもしれません。



 ◆



「雷って風魔法なんですか?」

「そうです。雷を操る術は風魔法の上位魔術です」


 私たちはカフェハウスの中に戻りました。

 カウンターの席に戻った魔法士のモルさんが、先程の戦いについて私に解説してくれています。


「複数の属性を持っているだけでも珍しいことです。しかもボブさんは火と風の双方の上位魔術を操れる。我が国で五本の指に入るトップクラスの魔術師ですよ」


 モルさんは私にそう説明すると、隣りに座っているホバート様にわくわく顔を向けました。


「ボブさん、雷を操れることを何故今まで秘密になさっていたのですか? 現在、雷魔法が使える魔法使いは我が国に二人しかいません。三人目が現れたことは重大ニュースですよ」


「隠していたわけではない。最近、使えるようになったのだ」


 ゆったりとカフェを飲みながらホバート様は答えました。


「この店で毎日、昼食(ランチ)をとるようになってから、すこぶる調子が良くなってな。今まで出来なかった魔法が使えるようになった」

「ほほう。薬膳料理の効果ですか」

「結果から推測するに、そういうことになるのだろうな。主治医が言うには、私は生まれつき魔力回路が破損していたのではないかということだ。それが光魔法料理により修復されたのではないかと」

「それは興味深いお話ですな。ぜひ詳しくお聞かせください」

「うむ……」


 ホバート様は考えるような顔をしながら、モルさんに説明を始めました。


「私には魔力の流れに不具合があったのだ。それは解っていたのだが、その原因は虚弱体質によるものと思われていた。しかしどうやら逆だったらしい」

「逆、とは?」

「魔力回路の不具合ゆえに、虚弱体質になっていたのではないかということだ」

「ふむ……」


 モルさんも考えるような顔になりました。


「複数属性は、魔力回路に負担がかかるという説がありますが……」

「それだ。私は三つの属性持ちだからな」

「は?」


 モルさんは一瞬驚きの表情を浮かべましたが、すぐに気付いたように言いました。


「そういえばスタイン公爵家は、火と土の複数属性でしたな」

「そう。庶民の家だがな」


 ホバート様が三つの属性を持っていると聞いて、私は興味が湧きました。


「ボブさんは火と風の他に、土の属性も持っているのですか?」

「うむ」


 ホバート様は頷きました。


「父が火と土の複数属性、母が風属性なのだ。どうやら両方受け継いだらしい」

「子供は両親の属性を受け継ぐのですか?」

「大抵は両親どちらかの属性を受け継ぐ。複数の属性を全部受け継ぐのは珍しい。仮説だが、三つ以上の属性持ちは育たないがゆえに、存在がほぼ皆無なのではないか?」


「どうして育たないんですか?」


 私がそう質問すると、ホバート様は少し難しい顔をしました。


「仮説だ。本当にそうなのかは解らない。だが複数属性は魔力回路の奇形だと言われている。その説を採用するなら、属性が多いほど魔力回路は奇形になるということだ。奇形がすぎると、体の健康にも害を及ぼすのではないかという仮説だ」


(私は魔力欠乏症になって魔力回路が壊れて……目の下にクマが出来たんだったわ)


 魔力回路の状態が健康にも影響を与えるというホバート様の話は、何となく解る気がしました。


「私は生まれつき体が虚弱でな。そのままでは命が無かったらしい。父が権力を使い、金に糸目をつけず、聖女を呼び、神殿から神器を借り、ポーションを買い漁り、私を延命させてくれたのだ。それは我が家だからこそ出来たことで、財産も権力も持たぬ者には出来ぬことだ」

「そんなにお体が弱かったのですか?」

「成長するにつれて良くなったがな。幼いころは寝たきりだった」

「そんなに?!」

「我が家には財産と権力があったから私は治療を受けることができた。しかし貧しい家の者であれば命はなかっただろう。複数属性であるがゆえの虚弱体質だったとしたら、三つ以上の属性持ちは、聖女を呼んだり神殿の神器を借りたり出来る家に生まれなければ育たないことになる」

「複数属性ってそんな……怖いことになるんですか」

「仮説だ。自分の他には、三つ以上の属性持ちに会ったことがない。他と比較して検証することが出来ないから仮説だ。……私は成長するにつれて普通の生活が出来るようになったが、魔法は上手く発動ができなかった。魔力回路に問題があると言われていた」


「ホバート様が?!」


 いつも自信満々で、あんなに凄い魔法を使ったホバート様が、魔法が上手く使えなかったなんて意外です。


「簡単な火魔法は使えた。だが土魔法や風魔法はほとんど使えなかった。魔力量があって属性を持っていても魔法が発動できないから、魔力回路に何らかの問題があるのだろうと言われていたのだ。体が虚弱なので、魔力回路も弱く、複数属性の負担に耐え切れないためではないか、というのがそれまでの医師たちの見解だったのだが、ところが……」


 面白そうに、ホバート様はニヤリと笑いました。


「この店の光魔法料理を食べるようになったら、体の調子がすこぶる良くなった。魔力の流れもスムーズになり火魔法の威力が上がった。風魔法も発動できるようになった」


「なんと!」


 ホバート様の説明を聞いていたモルさんが驚きの声を上げ、目を輝かせました。

 モルさんを振り向いて、ホバート様は得意気に自論を披露しました。


「光魔法料理により魔力回路が修復されたのだ。それで体も健康になり、魔力の流れの不具合も解消された。それはつまり、虚弱体質も魔力回路の破損が原因だったと言うことだ」


「むむむむ……」


 モルさんは難問に挑んでいるかのように唸りました。


「そうであるならば……。この店の光魔法料理を食べることで、複数属性は育ち、魔力回路が原因の病は治癒するということですか」

「そういうことになるな。育て癒すことは、まさに光魔法の真骨頂だ」

「さらには、光魔法料理を食べることで新たな魔法に目覚める者もいるかもしれないということになりますな」

「潜在能力があり尚且つ魔力回路が破損している者、という条件付きだがな。そういう者であれば魔力回路が修復されることにより新たな力に目覚めるだろう」

「むむむ……」


 モルさんは再び唸ると、意を決したように顔を上げて私に言いました。


「ルネさん、私は毎日このカフェハウスに通っております」

「はい。いつもありがとうございます」

「そろそろ常連として認めていただけないでしょうか」

「あ、はい。モルさんは常連です」

「おお!」


 モルさんは歓喜の声を上げました。


「で、では! 私にも、常連メニューの昼食(ランチ)を予約する権利をいただけますか!」

「え……。それはかまいませんが。昼食はお高いですよ」

「おいくらですか?」

「金貨一枚です」

「予約します!」

「他のお料理も光魔法料理なので、昼食だからといって特別な違いは無いと思いますが……」


 このカフェハウスのお料理は全てニーナの光魔法料理なので、メニューは違っても魔法の効果は同じだと思うのです。

 私はそれを説明しましたが、モルさんは譲りませんでした。


「昼食メニューが食べたいのです!」

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― 新着の感想 ―
ボブ兄さん、だいぶ可哀想な生い立ちだった そりゃポーションジャンキーになっても仕方ないかー……仕方ない……か……?
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