82話 元巫女との再会
カフェハウスの一日の営業が終わりました。
従業員が増えたので後片付けも明日の準備もさくさくと進み、暗くなる前に一日の仕事を終えることができました。
「皆さんのおかげで仕事がはかどりました。ありがとうございました」
私は従業員たちにお礼を言いました。
みんな笑顔で答えてくれました。
「どういたしまして。給金分の仕事ですのでお気になさらず。公爵家からは護衛費も貰っておりますので」
「ニーナさんの光魔法料理が賄だなんて、役得な仕事ですよ」
給仕係のキャリーさんとプリスさんがにこにこの笑顔でそう言うと、厨房係のジェシカさんとベティさんもそれに同意しました。
「ええ、とても楽しい仕事で私も感謝しております」
「公爵家の厨房はこんなものじゃないですからね。割の良い仕事ですよ」
「やっぱり公爵家の厨房の仕事って大変なんですか?」
ニーナが質問すると、厨房の雑用担当のベティさんは大きく頷いて答えました。
「まずお皿の枚数が違います。公爵家は使用人たちの賄の分もありますから、毎日何百枚もお皿を使っています。晩餐会なんて開かれた日には、もう、厨房は戦場みたいな忙しさですよ」
(お皿が何百枚かぁ。公爵家の厨房ってやっぱり凄いのね)
◆
「ただいま戻りました」
「ただいまお婆ちゃん」
私とニーナが薬屋に戻ると、ローナさんはまだ薬屋の売り場にいました。
薬屋の営業は終えていましたが、女性と話し中でした。
(お客さんかな?)
ローナさんが話している女性を見て、私は一瞬そう思いました。
でも次の瞬間、気付きました。
(ポリーさん?!)
それはかつて神殿の薬草園にいた平民の巫女の一人、ポリーさんでした。
私が神殿を出るより、もっと前に、巫女を辞めて神殿を出た人です。
「お帰り。ちょうど良かった」
ローナさんは、私とニーナを振り向いて言いました。
「紹介するよ。明日からこの店で薬師として働いてくれるポリーだ」
ローナさんはポリーさんを私たちに紹介すると、ポリーさんにも私たちを紹介しました。
「私の孫娘のニーナと、薬師のルネだ」
「……!」
ポリーさんは私に目を留めて一瞬微妙な表情を浮かべましたが、すぐに自己紹介を始めました。
「ポリーです。よろしくお願いします」
「ニーナです。こちらこそ、よろしくお願いします」
「ルネです。よろしくお願いします」
私がそう言うと、ポリーさんはまた微妙な表情をしました。
「あの、ルネさん? もしかして会ったことがあるかしら?」
「はい。神殿で」
「あっ!」
ポリーさんは、はっと気付いた顔をして小さく声を上げました。
「ルネ?!!」
ポリーさんはもう一度、今度は先程より大きな声を上げました。
「ルネ?! ルネなの?!」
「はい。お久しぶりです」
「背が伸びてて解らなかったわ。大人っぽくなったわね!」
「そ、そうですか?」
背丈はニーナが計ってくれているので、伸びていることは知っていましたが。
自分の顔は毎日見ているので、成長している実感はあまりありませんでした。
「私、大人っぽくなりました……?」
「うんうん、神殿で会ったときは子供だったのに。成長したね。すっかり娘らしくなっちゃって」
「……!」
娘らしくなったと言われて、私は嬉しくなりました。
気分がふわふわとしてきました。
「ロビニア横丁の天才薬師ってルネのことだったのね」
「え、天才薬師?」
「そうよ。突然、彗星のごとく現れた天才薬師。そっかぁ、ルネかぁ。ルネなら納得よ。天才だもん」
「そ、そんな大げさな……」
ポリーさんが私を褒めすぎるので、私は雲の上にいるような幸福な浮遊感の中に漂いました。
私とポリーさんのやり取りを見てキョトンとしていたニーナが、私に問い掛けました。
「ルネ、ポリーさんと知り合いだったの?」
「うん。神殿で同じ巫女だった人だよ」
「え、神殿の巫女?! じゃあやっぱり光魔法使いで、上級ポーションも作れちゃうんだ? すごい! 即戦力だね!」
ニーナが感心するようにそう言うと、ポリーさんは即座にそれを否定しました。
「まさか! 光魔法は使えますがルネと同じことは出来ませんよ」
「同じ巫女だったのに?」
「ルネはたしかに巫女でしたが、実力は聖女クラスでしたよ」
ポリーさんはそう言い、ふっと、冷めた笑みを浮かべました。
「ルネを見て、私は巫女を辞めたんです」
ポリーさんは肩を窄めてみせました。
「ルネほどの実力があっても聖女になれないんですよ? ルネみたいな天才でも聖女になれないんだから、私なんか永遠に聖女になれないって思い知りました。神殿なんて結局、貴族の身分がないと出世は出来ないんですよね。いくら実力があっても平民は巫女止まりで、良いように使い潰されるだけなんです。だからさっさと辞めました」




