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裏方聖女は逃げ出した!~ブラック職場やめます!お洒落なカフェハウスの店長になったので、今更戻れと言われてももう遅い!  作者: 柚屋志宇
第4章 闇のカフェ

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81話 有閑夫人たち

 新しい体制でのカフェハウスの営業に慣れたころ。


「いらっしゃいませ」

「ふふふ……。ハムちゃんも減って良い雰囲気のお店になったわね」


 スタイン公爵夫人がお友達のご婦人たちと来店しました。

 皆様、庶民の仮装です。

 侍女も混じっているのでしょうが、服装では見分けがつきません。


 スタイン公爵夫人は、庶民のような簡素なドレスを着て、鮮やかな色のスカーフでほっかむりをしていました。


(良い生地だわ)


 庶民に扮した公爵夫人たちのドレスは庶民風の飾り気のないドレスですが、良く見ると良い生地です。

 しっかりした生地でサイズもぴったりです。

 おそらく特別注文(オーダーメイド)で仕立てた服なのでしょう。


「お好きな席にどうぞ」


 お世話になっているスタイン公爵夫人なので、私がご案内しました。


「調子はどうかしら?」

「はい、おかげさまで順調です」

「それは良かったわ。ところで、ねえ……」


 スタイン公爵夫人はわくわく顔で私に質問しました。


「私のこの装い、どうかしら?」

「とても素敵です」

「庶民に見えるかしら」

「はい」


(よく見ると違うけれど。ぱっと見は庶民だわ)


 服の仕立てが良いこともそうですが、皆さん所作がお淑やかで、庶民とは雰囲気が違っていらっしゃいます。


「ふふふ……。今日の私は下町の奥様よ」


 スタイン公爵夫人はご機嫌でした。



 ◆



「本当にすごく美味しいわ!」

「このカフェという飲み物も、お菓子に合いますわね」


 スタイン公爵夫人の一行はお料理を気に入ってくださったようです。

 お友達の奥様たちはお料理を口にすると目を輝かせて、お淑やかに貪り、そして追加で別のお料理も注文しました。


「こんな素晴らしいお店を発見するなんて、さすがはスタ……、あら失礼、さすがは奥様ですわ」

「まさに穴場ですわね」

「そうでしょう? 息子が見つけて私に教えてくれましたのよ」

「さすがはホバート様ですわね」

「あらいやだ、奥様、うちの息子はただのボブですわ。ほほほ……」


「魔力の高い者にしか解らない味だなんて不思議ねぇ」

「魔力持ちの隠れ家ですわね」


 ご婦人たちはひとしきりお料理の話で盛り上がると、装いの話題に移りました。


「奥様のスカーフの巻き方には驚かされました」

「スカーフをそんなふうに使うなんて存じませんでしたわ」

「ほほほ……。下町ファッションを調べましたのよ」

「さすがはファッション・リーダーですわ」

「私も早速スカーフを用意して流行に乗らなければ」


 そして彼女たちは、鉄の掟について相談を始めました。


「私たちの手で、この楽園を守りましょう」

「もしここで身分をひけらかすような者がいたら……」

「粛清ですわね」


 一人の婦人が、店内の魔法士さんたちに厳しい視線を向けました。


「魔法士のローブは身分を示しているわ。この下町の楽園で、あのローブは無粋ではないかしら?」

「そうねえ。魔法塔でビスケットを売らせて、人数を削ってやったのだけれど。あのローブはやはり見苦しいわね」

「そうですわ。無粋ですわ」

「エスプリを理解しない無粋な連中に一言言ってやりましょう」


(な、何か、喧嘩をしようとしている?!)


 不穏な話し合いをしていたスタイン公爵夫人とお友達の皆さまが、すっと席を立ちあがったので、私は慌てました。


「あ、あの、スタ……、奥様、何をなさるおつもりですか?」


 動転しながら私が問いかけると、スタイン公爵夫人は優雅に微笑みました。


「安心なさい。ちょっとお話をするだけよ。妹ちゃんが心配するようなことは何もないわ」


 スタイン公爵夫人はそう言うと、お友達の皆様と共に、すたすたと手近なところにいる魔法士さんのテーブルに直進しました。


(どうしよう……!)


 スタイン公爵夫人はまだ何かしたわけではないので、無理やり止めるわけにもいかず、私ははらはらしながら見守りました。


「ねえ、そこの貴方、ちょっと良いかしら?」


 スタイン公爵夫人とお友達の皆様は、二人の魔法士さんがいるテーブルに歩み寄ると、そのテーブルを包囲しました。


「……っ!」


 下町の奥様風の婦人たちに包囲されて、魔法士さんはぎょっとして振り向きました。


「な、何か?」

「我々にご用ですか?」


 戸惑う魔法士さんたちに、スカーフをほっかむりして庶民風の装いに身を包んでいるスタイン公爵夫人は、その装いに似合わない尊大な態度で言い放ちました。


「ここは下町だというのに、魔法士のローブを着て、庶民相手にこれみよがしに身分をひけらかすのは品性に欠けるのではないかしら?」


「私たちは、ひけらかしているわけでは……」

「マダム、これは普段着です」


 戸惑う魔法士さんたちに、スタイン公爵夫人たちは険のある視線を向けて苦言を呈しました。


「下町でそのローブは目立ちましてよ」

「庶民を威嚇するおつもり?」

「態度を改めないなら魔法塔に抗議いたします」


 婦人たちの集団はやいのやいの言いました。


「す、すみません、配慮が足りず……」


 たじろぐ魔法士さんたちに、スタイン公爵夫人たちは強い態度で要求をつきつけました。


「以後、服装を改めることね」

「下町の雰囲気を壊さないでいただきたいわ」


(つ、強い……)


 私はスタイン公爵夫人の身分を知っていますが、魔法士さんたちは知らないはずです。

 でもスタイン公爵夫人たちは、身分を明かすことなく主導権を握ってしまいました。


(自分の考えをちゃんと言ってて、凄い)


 何か違うような気もしましたが。

 でも凄いと思いました。


 良いように言いくるめられて奴隷にされていた経験がある私には、スタイン公爵夫人たちの強さは輝いて見えました。


(あの強さ、見習いたい)

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