74話 忙しいカフェハウス
翌日、私とニーナは早朝に市場へ行って食材を買うと、カフェハウスに向かいました。
そしてカフェハウスの厨房に入ると、お店で出すお菓子作りを始めました。
「ルネは木の実をすりつぶして」
「解った」
お料理に関しては、私にできることはほとんどありません。
お料理はニーナが頼りです。
私は木の実をすりつぶしたり、焼き上がったクッキーやビスケットを容器に移したり、光魔法の結界魔術で保存をしたりという微々たるお手伝いしかできません。
「ルネ、ビスケット焼き上がったよ。お願い」
「はーい」
ニーナは、クッキーやビスケットの生地をこねたり、石窯の火加減を見たり、くるくると忙しく動き回っています。
「昨日みたいな食べ方をされたら、パイやタルトを何種類も用意するのは無理かもしれない。パイやタルトは日替わりにしたほうが良いかな……」
お料理をしながらニーナが独り言のように呟きました。
「昨日は凄かったもんね……」
私は昨日の、魔法士さんたちの食べっぷりを思い出しました。
たくさんお客さんが来てくれたことは嬉しいのですが、それは私が思い描いていたお洒落な茶房とは違う風景でした。
私が想像していた茶房は、お洒落をしたお客さんたちが、お茶を飲んだりお菓子をつまんだりしながら、おしゃべりをして、ゆったりと時間を過ごすくつろぎの空間です。
でも昨日のカフェハウスの様子は、お腹を空かせた人たちが一心不乱に食べ続けている鬼気迫る空間でした。
ホバート様にはハムスターの群れに見えたようですが、たしかにお腹を空かせた動物の群れに似ている雰囲気があったかもしれません。
「ルネはそろそろカフェの用意をしなよ。もうすぐ開店の時間だよ」
「そうだね。じゃあ私はカフェを煎れるよ」
◆
今日もカフェハウスの営業が始まりました。
「開店したよ」
私は厨房でお料理を続けているニーナに声を掛けました。
「ニーナ、カフェ飲む?」
「貰おうかな。厨房で飲むよ」
「解った。持っていく」
私は二人分のカフェをカップに注ぎました。
そしてニーナの分のカフェを厨房に持っていきました。
「はい」
「ありがと」
――チリン。
カフェハウスの入口の扉につけている鈴が鳴りました。
お客さんです。
私はニーナと目と目を見交わし合うと、すぐにお客さんを迎えるためにお店に出ました。
「いらっしゃいませ!」
◆
「カフェとティー・ビスケットと木の実のパイを頼む」
「私はカフェとティー・ビスケットと無花果のタルトを」
お客さんは灰色のフード付きローブを着た男性二人。
魔法士さんでした。
「かしこまりました!」
今日も昨日と同じく魔法士さんの来店から始まりました。
そしてその後も魔法士さんたちが次々と来店しました。
昨日いらした魔法士さんもいれば、初来店の魔法士さんもいます。
「いらっしゃいませ!」
今日はニーナは厨房でずっとお料理をしているので、私が一人で店内の仕事をこなしています。
目が回るような忙しさです。
(でもこのくらい、神殿でセラフィナ様のお手伝いをしていたころに比べたらどうってことはないわ。だってこの仕事には光魔法は使わないもの)
そう考えて、ふと、思いました。
(身体強化の術を使ったらもっと動けちゃうかも?)
私は合間を見て、厨房に入りました。
「ルネ、どうしたの?」
そう問いかけて来たニーナに、私は答えました。
「ちょっと身体強化する」
「は?」
ニーナは訝し気に眉を寄せましたが、忙しいときですので、説明は後回しにして私は術を発動しました。
(疾く風のごとき素早さを我が身に貸し与えたまえ……!)
光魔法の一瞬の輝きが私を包みました。
「ルネ、今、光魔法で何したの?!」
「身体強化したんだよ」
「へ?! 身体強化?!」
「身体能力をあげる術だよ」
「まさかアレキサンドライト様のあの身体能力?!」
「そうだよ」
「茶房の仕事で、どうして最強になるの?!」
「もっと動けるようにだよ。ニーナにもかけてあげようか?」
「あ、いや、私はいいよ」
「そう? 必要ならいつでも言ってね」
「う、うん……」
ニーナは「うーむ」と唸ると、ぽつりと言いました。
「さすがアレキサンドライト様……」




