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裏方聖女は逃げ出した!~ブラック職場やめます!お洒落なカフェハウスの店長になったので、今更戻れと言われてももう遅い!  作者: 柚屋志宇
第4章 闇のカフェ

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72話 暴食の魔法士たち

「妹よ、昼食を頼む」

「はい!」


 昼食を予約していたホバート様と従者さんは、空いているテーブルの席に着きました。

 私とニーナは、ホバート様たちのテーブルに昼食を運びました。

 するとホバート様が言いました。


「明日の昼食は六人分を予約したい」


 六人!

 ホバート様のお友達が来るのでしょうか。


「はい! 承りました」


 ニーナがにこにこの笑顔で返事をしました。


「それから……」


 ホバート様は店内を見回して、少し不愉快そうに眉を歪めました。

 店内では、灰色のローブの魔法士さんたちがティー・ビスケットを食べています。


「念のため、テーブル席を二つ予約しておきたい。ここの料理に魅かれて、明日もハムスターの群れが来るかもしれんからな」


 ハムスターというのは魔法士さんたちのことでしょうか。

 お揃いの灰色のローブの魔法士さんたちがビスケットを齧っている姿は、小型魔獣ハムスターが太陽花(サンフラワー)の種を齧る姿に似ていないこともないかもしれません。

 大きさが全然違いますが。


「それと、持ち帰り用の品を頼む。クッキー十皿と、パイとタルトの全種類を二つずつだ」

「は、はい!」


 大量注文です。

 私はニーナと目と目を見交わし合うと、カウンターの中に入り、早速ホバート様のお持ち帰り用の品の用意を始めました。


 そうしている間にも、店内にいる魔法士さんたちから追加注文の声がかかります。


「ティー・ビスケットのおかわりをたのむ」

「はい、ただいま!」


 今日のカフェハウスはとても忙しいです。



 ◆



「ティー・ビスケットのおかわりを頼む」

「すみません、ティー・ビスケットは品切れです」

「な、何……!」


 魔法士さんたちに食べつくされて、ついにティー・ビスケットが品切れになってしまいました。

 昨日、リロイ様が全てお買い上げになってティー・ビスケットが品切れになったので少し多めに作ったのですが、全て食べつくされてしまいました。


「もう無いのか……」

「すみません。明日またご用意いたします」

「明日か……」


 魔法士さんはがっくりと肩を落としました。


「ふふふ……」


 お淑やかにお食事をしていたホバート様が勝気な笑みを浮かべました。

 ホバート様は魔法士さんたちに見下すような視線を向けて、挑発的に言い放ちました。


「愚かなハムスターどもめ」


 ホバート様の世界では、魔法士さんたちはハムスターになっているようです。

 魔法士さんたちはホバート様を振り向き、不愉快そうに眉を歪めました。


「ハムスターだと?」

「誰のことだ?」


 魔法士さんたちは険のある視線をホバート様に向けました。

 ですがホバート様は余裕の笑顔で言いました。


「決まっているだろう。ビスケットばかり齧っている貴様らのことだ」


「無礼な。我々は魔法塔の魔法士だ」


 魔法士というのは、魔法士爵という爵位を持っている方々です。

 騎士爵と同じく一代限りの爵位ですが、特権階級です。


「どこのお坊ちゃんか知らんが口の利き方には気を付けることだ」


 魔法士さんがそう言うと、ホバート様はまんまと獲物を罠に追い込んだかのような嬉々とした笑みを浮かべました。


「貴様らこそ口の利き方に気を付けるが良い。私はスタイン公爵が息子ホバート・スタインだ!」


 ホバート様が身分を叫ぶと、魔法士さんたちは一斉に顔色を変えました。


「スタイン公爵?!」

「ば、馬鹿な!」

「公爵家の令息が何故こんな下町の店に!」


 魔法士さんたちに動揺が広がりました。


「だがあの紅目は……」

「スタイン公爵家の炎眼?!」

「そういえばスタイン公爵のご子息は白髪だと聞いたことが……」


 世間知らずの私はそのときはまだ知らなかったのですが。

 ホバート様の紅目はスタイン公爵家の直系に現れる遺伝的な特徴でした。

 珍しい色の目だとは思っていましたが、スタイン公爵家の炎眼と呼ばれている特別な目の色だったようです。


 ホバート様が振りかざした身分と瞳の色に、魔法士さんたちは屈服しました。


「し、失礼いたしました……」

「ご無礼をお許しください……」


 圧勝したホバート様は満足そうな笑みを浮かべました。


「ふん、解れば良い。愚かなハムスターどもめ。だが貴様らの殊勝な態度に免じて良いことを教えてやろう。クッキーも齧ってみるが良い。ハムスターらしくな!」


 ホバート様の言葉に、魔法士さんたちは微妙な表情になりました。


「はあ、クッキーでございますか……」

「まあ、ビスケットは売り切れてしまったようですし……」

「締めはクッキーにしますか……」


 思案気にしている魔法士さんたちに、ホバート様は言いました。


「貴様らはこの店のビスケットが何故美味なのかという理由を考えないのか。魔法塔の住人も大したことはないな。やれやれ」


 皮肉っぽい顔でホバート様は肩を窄めてみせました。


「ビスケットの旨味には魔力が関係している可能性がある話は聞いております」

「魔力が多い者にだけ感知できる美味だとか……」


 魔法士さんたちが思案気に回答しました。

 するとホバート様は優越に浸るようにして言いました。


「それが解っていて、貴様らは何故ビスケットばかり齧っているのだ。頭の中身もハムスター並みか?」


「……?!」

「もしや……!」

「他の料理も?!」

「ビスケットのような旨味があると?!」


 魔法士さんたちに波紋が広がる中に、ホバート様はさらに石を投げ込みました。


「そのとおり。私はすぐに気付いた。光魔法の味がしたからな」

「光魔魔法の味? それはどういう意味ですか?」

「料理に光魔法が使われていたのだ。この店の料理は全てが光魔法料理なのだ」


 ホバート様のその言葉に、魔法士さんたちは唸りました。


「光魔法による錬金術ですか?!」


 魔法士さんが結論を口に出すと、ホバート様は不服そうに叫びました。


「錬金術ではない。光魔法だ!」


 昨日と同じくホバート様は光魔法を主張しました。


(光魔法をお料理に使っているんだから、錬金術でも合っている気がするけど。何が違うんだろう)


 私は内心で首を傾げました。


「君、クッキーを頼む。検証がしたい」

「はい!」


 魔法士さんたちが追加注文を始めました。


「もう一度メニューを見せてくれないか」

「はい、ただいまお持ちします!」


 魔法士さんたちは次々と追加注文をして、もくもくと食べ始めました。


「こ、このパイの味は……!」

「なんという馥郁たる香り……!」

「なるほど、錬金術による薬膳料理か、なるほど……」


(あんなに沢山食べて、みんなお腹は大丈夫なのかな)


 灰色のローブの魔法士さんたちが、唸りながら食べ続けている姿に、私は少し不安になりました。

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― 新着の感想 ―
カフェハウスがいつの間にか、ハムスターの巣窟になってる(笑)。
うぅーーまぁーいぃーぞぉぉおー!!!
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