71話 カフェハウスの賑わい
「お店、開けるね」
私はニーナにそう声を掛けると、カフェハウスのドアの表に『営業中』のプレートを出しました。
「今日もお客さんが来ると良いね」
私は店の中に戻ると、カウンターの中で自分とニーナのためにカップにカフェを注ぎました。
そしてニーナにカップを手渡しました。
「はい、ニーナの分」
「ありがとう」
お客さんが来ると良いな、というのは願望です。
ですが私たちはお客さんが来ないことに慣れ始めていたので、営業開始直後からカフェを飲みながらおしゃべりをする態勢に入りました。
「昨日の売り上げは凄かったね」
私がそう言うとニーナは苦笑いしました。
「一品の値段がお高いからねぇ」
昨日はホバート様がクッキー十皿を、リロイ様がティー・ビスケットをあるだけ全部買ってくれたので、カフェハウス史上最高の売り上げでした。
私たちは初めて品切れを体験しました。
「クッキーやビスケットを持ち帰り用にも販売するのはどうかな」
私がそう提案すると、ニーナは面白そうに目を輝かせました。
「それ良い案かも。袋詰めにして持ち帰り用にしたら、他所の店に置かせてもらって売ることもできる。委託販売ってやつよ」
「ニーナのクッキーの味を広められるね!」
「でもそれだと茶房じゃなくてクッキー屋になっちゃいそう……」
私たちがとりとめのない雑談をしていると、店のドアにつけている鈴がお客さんの来訪を知らせました。
――チリン。
「……!」
私はカフェのカップを置くとカウンターから出て、早速お客さんをお迎えしました。
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
お客さんは、お揃いの灰色のフード付きローブを纏った男性二人でした。
灰色のローブも、ローブの下の衣服も、少し着古している感じがしますが質は良さそうなものです。
「どうぞ、メニューです」
「ありがとう」
二人のお客さんはメニューを受け取って品書きをざっと見ると、すぐに顔を上げて私に言いました。
「このくらいのビスケットはあるかな?」
そう言い、彼は手の指で大きさを示した。
「はい。その大きさならティー・ビスケットがあります」
「ではそれを二人分、それからカフェを二人分お願いする」
「かしこまりました」
私は早速ニーナにティー・ビスケットの用意を頼み、ポットのカフェをカップに注ぎました。
そして二人のお客さんに配膳をしました。
「ご注文のカフェとティー・ビスケットです」
「おお!」
「これだ!」
お客さんたちはティー・ビスケットに熱い視線を向け、すぐに手を伸ばすと、齧りつきました。
――カリカリカリ。
そして一心不乱にティー・ビスケットを食べ始めました。
(二人とも魔法使いなのかな)
ティー・ビスケットに夢中になっている二人は、ニーナの光魔法料理の美味しさが解ったように見えたので、魔法使いかもしれないと思いました。
――チリン。
また、入口のドアの鈴が鳴りました。
「いらっしゃいませ!」
こんな短時間にお客さんが続けて来るなんて、今日のカフェハウスは繁盛しています。
「……!」
新しく来たお客さんは三人連れでした。
ティー・ビスケットを食べている二人連れのお客さんと同じく、灰色のフード付ローブを着ていました。
全く同じ、お揃いのローブです。
「お好きな席にどうぞ」
私がそう言うと、新しい三人のお客さんは店の中に視線を巡らせました。
そしてティー・ビスケットを食べている二人を見て小さく声を上げました。
「あ!」
「貴殿らは開発部の!」
お揃いの灰色のローブの二人組と三人組は、どうやら顔見知りのようでした。
「そのビスケットか?!」
「そうだ。ティー・ビスケットというものだ」
新しく来た三人組は、先に来ていた二人組の隣のテーブルに座りました。
そして私がメニューを渡すと、メニューを見る前に言いました。
「あのビスケットをくれ!」
「私も!」
「ビスケットを!」
三人組も、ティー・ビスケットとカフェを注文しました。
私が注文の品を配膳すると、やはりティー・ビスケットに熱い視線を向け、そして一心不乱に食べ始めました。
――カリカリカリ。
(昨日ホバート様とリロイ様が検証すると言って、お菓子をお持ち帰りしていたけれど……)
閑古鳥が鳴くこのカフェハウスに。
知り合いでもないお客さんが立て続けに来るという、この大事件について、私は考えを巡らせました。
(ティー・ビスケットをお持ち帰りしたのはリロイ様だった。このお客さんたちはリロイ様がティー・ビスケットを食べさせた人たちかな?)
――チリン。
また入口のドアの鈴が鳴りました。
お客さんです。
「いらっしゃいませ!」
今度は二人連れでした。
やはり灰色のフード付きローブを着ています。
「あ!」
そしてすでにティー・ビスケットを食べているお客さんたちとはやはり顔見知りのようでした。
そしてやはりティー・ビスケットを注文しました。
「ティー・ビスケットとカフェを」
「はい!」
――カリカリ。
――カリカリカリ。
合計七人の、お揃いの灰色のフード付きローブのお客さんたちは、みんなティー・ビスケットを注文して、取り憑かれたようにティー・ビスケットを食べていました。
――カリカリカリ。
「ティー・ビスケットのおかわりを」
「はい!」
◆
――チリン。
「ごきげんよう、妹よ。兄が来たよ」
今日もカフェハウスにホバート様がいらっしゃいました。
ホバート様と従者さんは、今日初めての、灰色のフード付きローブを着ていないお客さんです。
知り合いですけれど。
「なんだこいつらは……」
店内の様子を見たホバート様が少し不愉快そうに呟きました。
カフェハウスの店内では、灰色のフード付きローブを着たお客さんたちがティー・ビスケットを齧っています。
――カリカリカリ。
「鼠色のローブは流行か?」
怪しいものを見るような目でお客さんたちを見回して、そう呟いたホバート様に、従者さんが笑顔で答えました。
「若様、あれは魔法塔の魔法士のローブでございます。魔法塔の住人たちかと」
(あのローブは魔法塔の制服だったのね)
博識な従者さんのおかげで、お客さんたちのお揃いの灰色のフード付きローブの正体が解りました。
「ウィルモットの配下か……」
不味そうに顔を顰めると、ホバート様は感想を言いました。
「ふん。ビスケットばかり食べおって。まるでハムスターだな」




