61話 ホバートの来店
「妹よ、兄が様子を見に来たよ」
「ホバート様!」
私のカフェハウスは、その日も閑古鳥が鳴いていましたが。
午後になると、ホバート様がいらしてくださいました。
通算、三人目のお客さんです。
「なかなか閑静で良い雰囲気の店じゃないか」
「……はい。ありがとうございます」
お客さんがいないことは、私にとっては悲しいことですが。
ホバート様は、静かな雰囲気を気に入ってくださったようです……。
「どうぞ、メニューです」
「ふむ……。君はカフェのために店をやりたかったのだったね?」
「はい」
「ではこのカフェというものを貰おうか。それから……この木の実の焼き菓子を」
ホバート様はカフェと焼き菓子を注文すると、連れている二人の従者にも注文を促しました。
「君たちも好きなものを頼みたまえ」
(ホバート様がお客さんを連れて来てくれた!)
注文が増えて、私は嬉しくなりました。
ホバート様の従者たちですが、お客さんには違いありません。
私はいそいそとカウンターの中に戻り、注文の内容をニーナに伝えました。
そして私は、ポットに入れて熱板で保温しているカフェ豆茶をカップに注ぎました。
ニーナがにこにこの笑顔で、木の実の焼き菓子をお皿に取り分けてくれました。
「お待たせしました。カフェと木の実の焼き菓子です」
私は説明をしながら、ホバート様のテーブルに配膳をしました。
その間に、ニーナがカウンターの中で、従者たちの注文の品を準備してくれています。
「ふむ……。これがカフェか……」
ホバート様は観察するようにカフェ豆茶をまじまじと見た後、カップを手にとると、カフェの香りを確かめるかのように、カフェから立ち上る湯気に顔を近づけました。
「……!」
ホバート様の目がキラリと光りました。
視線を鋭くして、ホバート様は無言のままカフェのカップを口に運びました。
そしてカフェに口を付けると……。
「妹よ、光魔法を使ったか?」
ホバート様は私に、鋭い質問をして来ました。
「はい。香りを引き出そうとして、焙煎しているときに少し光魔法を使いました。あと保存にも使っています」
「なるほど、なるほど」
ホバート様は興奮気味に何度も頷きながら、カフェを口に運びました。
「あの、ホバート様、苦くないですか? お砂糖とミルクを混ぜると甘くまろやかになって飲みやすくなります」
「不純物はいらぬ。このままで良い」
(ホバート様には、カフェのクセになる苦味の良さが解るのね)
私は同士を得たような嬉しい気分になりました。
「ご注文の品をお持ちしました」
ニーナが従者たちに、注文のお茶と、焼き菓子とクッキーを運んで来ました。
「ではホバート様、ごゆっくりどうぞ」
私はそう挨拶をして、カウンターに戻ろうとしたのですが……。
「妹よ! この焼き菓子は何だ!」
ホバート様が声を上げました。
(え?!)
何か問題があったのかと、私は不安になりました。
ニーナも顔を曇らせています。
「何か問題がありましたでしょうか?」
「光魔法を使っているだろう!」
ホバート様は半ば叫ぶようにして言いました。
「この焼き菓子の光魔法は何だ?! いつもの光魔法と味が違うぞ?!」
(味?! 光魔法に味があるの?!)
私はホバート様の能力に内心で戦慄しながら、説明をしました。
「お料理はニーナが作っているんです。お料理に入っているのはニーナの光魔法です」
「なるほど!」
ホバート様は猛禽類のように瞳をギラリと輝かせました。
そして上品に器用にフォークで焼き菓子を切り崩しながら、もくもくと食べ始めました。
「あの、ホバート様……? ご用はもうないでしょうか?」
一心不乱に焼き菓子を食べ始めたホバート様に私がそう質問すると、ホバート様は顔を上げて言いました。
「妹よ、もう一度メニューを見せてくれ。他の品も頼みたい」
(ニーナの焼き菓子を気に入ってくれたの?!)
「は、はい! 只今!」
私はニーナを振り向いて、目と目を見交わしあいました。
どうやら料理が気に入ってもらえたことが、ニーナも嬉しいようで、輝くような笑顔を浮かべています。
◆
「次は、何を頼もうか……」
ホバート様はお料理を追加で注文してくださいました。
そしてホバート様はさらにまだ注文をしてくださるようで、メニューを睨みつけています。
「ホバート様、お菓子ばかりそんなに食べて、お腹は大丈夫ですか?」
「ここの料理は絶品だ。すべて食べたい」
(ニーナのお料理は美味しいものね)
ホバート様の気持ちは、私には痛いほどよく解ります。
私はニーナの料理を毎日食べることができる幸運に浴していますが、ホバート様のおうちにはニーナがいないのです。
ここで食べつくしたいという気持ちになるのは仕方のないことです。
ですが……。
「恐れ入ります、ホバート様」
カウンターからニーナが出て来て、ホバート様に言いました。
「お料理を気に入っていただけて大変嬉しく思います。ですが……」
ニーナは少し考えるような顔をして言いました。
「失礼かとも存知ますが……」
「かまわん。何でも言うが良い」
「はい、あの、ホバート様はもしや、魔力回路になにか問題をお抱えになっているのではないでしょうか?」
「根拠は?」
「魔力回路が壊れていると私のお料理をすごく美味しく感じるらしいのです。ルネがそうでした」
「何だと?!」
ホバート様は目の色を変えました。
「もっと詳しく話せ!」
「はい……」
ニーナは、私の魔力欠乏のことや、ニーナの光魔法料理についてのローナさんの考察を語りました。
そしてホバート様に申し出ました。
「もしよろしければ、普通のお料理をサービスいたします。ホバート様にはお世話になっていますので無料でお作りいたします」
「料理を出すが良い。だが無料だなどと、私に恥をかかせるのはやめるのだ。代金は支払う。もちろん金貨でな!」
「あ、いえ、金貨は困ります。金貨は高すぎます」
「何を言う。光魔法には金貨の価値がある。それに私は安物は口にしない。私が口にする料理なのだから、値段は金貨が妥当だ!」
「そ、そんな、いくらなんでも……」
「異論は認めん。私はホバート・スタインだ!」




