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裏方聖女は逃げ出した!~ブラック職場やめます!お洒落なカフェハウスの店長になったので、今更戻れと言われてももう遅い!  作者: 柚屋志宇
第4章 闇のカフェ

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60話 予想外の波紋

「エリオット様、どうかしましたか?」

「……!」


 第二騎士団の団長室で、書類を前にしてぼんやりしていたエリオットは、そうダレスに声を掛けられて顔を上げた。


「別に……。何でもない」

「闇の神官ちゃんのことですか?」

「……!」


 図星を突いたダレスの言葉に、エリオットは言葉を詰まらせた。

 だがダレスは気楽な調子で言った。


「心配する必要はないと思いますよ。闇の神官ちゃんはあの戦闘力で、しかも今はスタイン公爵家が後ろ盾についている」

「スタイン公爵令息が味方についているのは、一時の気まぐれの可能性がある。あの店のポーションに飽きたら、どうなるか……。確実なものじゃない」

「でも今は味方でしょう」

「今はな」

「この世に、絶対に確実なものなんてありませんよ。今味方なら良いじゃないですか」

「君は気楽だな」

「エリオット様が深刻すぎるんですよ。心配しすぎです。それに、闇の神官ちゃんは……」


 ダレスは面白そうに笑った。


「今、王都で最も恐ろしい人物ですよ。うかつに手を出した奴は、間違いなく消し飛ぶでしょう。物理的にも政治的にも。犯罪者どもだって、闇の神官ちゃんを恐れて縮こまっているじゃないですか」


「そうかもしれないが……。目立ってしまっては平穏には暮らせないだろう」


「そりゃあね、権力でも財産でも才能でも、特別なものを持っている者は常に羨望と嫉妬を浴びて、それを利用しようとする奴らがうじゃうじゃ寄って来ますよ。特別である限り、どうしたって平穏でいられない」


 ダレスは皮肉っぽい微笑を浮かべてエリオットに言った。


「エリオット様のようにね」

「……」

「闇の神官ちゃんはエリオット様に似ていますね。生まれも育ちも状況も違いますが、特別なものを持って生まれたせいで、生まれつき苦難を強いられるところは同じだ。それで、気になっているんじゃありませんか?」


「まあ、そうだな……」


 ダレスの指摘に、エリオットは降参したように答えた。


「隠れるのはやめて、戦うと、彼女は言っていた」

「勇ましいですね。エリオット様も見習ったらどうですか?」

「馬鹿を言うな……」

「冗談じゃなくて本気です。エリオット様も戦えば良いと思っていますよ」

「……火種を蒔くようなことをして騒動を起こしたくない……」


 エリオットがそう答えると、ダレスは苦笑した。


「お行儀が良いことで」



 ◆



「ベイカー氏が?」


 マゼラン商会で働くネヴィル・マゼランは、自宅に戻ると、執事から言伝(ことづて)を聞いた。


 言伝の主は、屋敷の料理人ベイカーだ。

 ネヴィルに話したいことがあるから、時間をとって欲しいという。


「一体何事だ?」


 ネヴィルは首を傾げた。

 食材の仕入れや調理器具のことなら執事に言えば事足りる。

 料理人が直接話をしたい理由が思い当たらなかった。


「坊ちゃまのお客様からお手紙をもらったとかで、お知らせしたいことがあるそうです」

「私の客から? ベイカー氏が?」


 ネヴィルはさらに首を傾げたが、ともあれ料理人ベイカーに話を聞くことにした。


「坊ちゃま、ルネ様からお手紙をいただきました」

「ルネ?」


(はて、誰だったか……?)


「お忘れですか。坊ちゃまのご命令で、私がカフェ豆の焙煎をお教えしました」

「ああ!」


 ネヴィルは合点がいった。

 カフェ豆を買いに来た少女たちのことは覚えていた。

 少女たちは、つい最近もカフェ豆を買いに来た。


「ルネ様はカフェのお店を開店なさったそうです」

「あの少女がか?!」

「はい。ルネ様が店主です」

「カフェの店とは?」

「カフェを出すお店だそうです。『カフェハウス』という名前のお店だそうで」

「……は?」


(それは売れないだろう!)


 瞬間的にネヴィルは思った。


 カフェは嗜好品で、嗜む者は少ない。

 しかも高級品だ。


 茶房のような店で、メニューの中にカフェがあるならまだ解る。

 だがカフェを全面に出した店名で、カフェを出して、売り上げが望めるとは思えなかった。


(いや、待てよ……)


 だがネヴィルは思い直した。


(少女なのに店を出すとは。かなりの財産家の娘か?)


 売れそうにないカフェを出す店は、明らかに趣味の店だと思われる。

 そんな趣味の店を、しかも年端のいかない少女が始めたのだ。

 よほど財産に余裕がなければできることではない。


「その店は、どこでやっているんだ?」


 ネヴィルは興味を引かれて料理人ベイカーに尋ねた。


「西区でやっているみたいです。手紙に住所が書かれています」


 料理人ベイカーは、ルネからの手紙をネヴィルに見せた。


(下町じゃないか!)


 高級品であるカフェの店を、あまり裕福ではない人々が集まる下町に出す。

 ネヴィルには結果が見えた。


(これは売れないぞ……)

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― 新着の感想 ―
「これは売れないぞ…」 的確な意見に思わず笑いました。 馴染みのない高い嗜好品だもんなぁ。
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