58話 エリオットの来店
魔王がいるというとんでもない疑いを掛けられて、騒動になった翌日。
「今日も暇だね……」
「うん……」
昨日の騒ぎが嘘だったかのように、カフェハウスは今日も静かでした。
しかし……。
――チリン。
扉の鈴が涼やかな音を立てました。
「……!」
「……!!」
私とニーナは弾かれたように椅子から立ち上がりました。
私はお客さんを迎えるべく、扉に向かいました。
「いらっしゃいま、せ……っ?!」
カフェハウスの扉を開けたお客さんは、長身の若い男性でした。
庶民のような簡素な服装ですが、銀髪碧眼、そして美貌。
「エリオット様?!」
庶民風の装いですが、それは第二騎士団の団長エリオット様でした。
エリオット様は美貌の騎士様です。
月光を紡いだような混じりけのない銀髪に、冬の湖のような青緑色の瞳。
誰もが目を奪われる美貌。
そして長身、鍛えられた体、素人らしからぬ身のこなし。
どこからどう見ても、ただの庶民ではありません。
そんなエリオット様には、庶民の服装が全く似合っていません。
いかにも「変装しています」という怪しい違和感が凄いです。
「こんにちは」
「ま、また、何かありましたか?!」
騎士様が来るときは、何か事件があったときです。
私はまた何か悪いことが起こったのかと戦々恐々としました。
(魔王の疑いは、もう晴れたはず……! 今度は何?!)
しかし、エリオット様の答えは意外なものでした。
「いや、今日は客として来た」
「え……」
とても意外です。
だってエリオット様は、昨日、カフェにあまり興味がなさそうでした。
むしろカフェが気に入らないような、曇った顔をしていたのに。
ですが……。
初めてのお客さんです!
「お好きな席にどうぞ! どこでも空いてます!」
「カウンターの席でいいかな?」
「はい! 席は全部空いていますから、どこでもどうぞ!」
カウンターの席に座ったエリオット様に、私はいそいそとメニューを差し出しました。
エリオット様はメニューをチラリと見ただけで、すぐに注文をしました。
「カフェを頼む」
「はい!」
初めてのお客さんが、カフェの豆茶を注文してくれました。
万全の準備を整えていた私は、意気揚々と、ポットで保温しているカフェをカップに注いで出しました。
「どうぞ! カフェです! もし苦くて飲みにくければ、ミルクとお砂糖を入れると飲みやすくなります。必要ならおっしゃってください」
「ありがとう」
エリオット様はカフェのカップに口を付けました。
「……」
苦かったのか、エリオット様はその美しい眉を歪めました。
「……ミルクと砂糖で飲みやすくなるのか?」
エリオット様が私に質問しました。
(やっぱり苦くて、飲みにくかったんだ……)
その苦いのがクセになるのですが、初心者には解らないですよね。
「はい。カフェに入れるミルクとお砂糖はサービスですので無料です」
「頼む」
私は用意していた砂糖のポットと、小さなミルクピッチャーを出しました。
「どうぞ!」
「……これを、どのくらい入れるんだ?」
「お好みによりますが、スプーン一杯のお砂糖だけでも飲みやすくなります。ミルクもスプーン一杯ほどの量を入れると、まろやかになります」
「それで作ってくれ」
エリオット様がカフェのカップを私の前にずいと出しました。
「かしこまりました!」
(エリオット様は貴族のご出身らしいから、こういうの慣れていないのかな)
私は思案しながら、エリオット様にお出ししたカフェにミルクと砂糖を入れました。
(最初からミルクとお砂糖を入れたカフェを、ミルク・カフェとしてメニューに入れたら、エリオット様みたいな人も頼みやすくなるかな)
エリオット様のおかげで、私はミルク・カフェという新メニューを思いついてしまいました。
「どうぞ! ミルク・カフェです!」
「ありがとう」
今度は飲みやすかったのか、エリオット様はその美貌を歪めることなくカフェを飲みました。
「実は……」
カフェのカップを置いて、エリオット様は私に言いました。
「君に聞きたいことがあって来た」
「……?!」
(な、何か、まずいことがバレたの……?! 知られてまずいことなんて、今更何かある?! エリオット様たちは私が神殿にいたことを知っていて、黙っていてくれているんだよね?!)
「私に、何のご用でしょうか」
私はドキドキしながらも、平静を装って応対しました。
エリオット様は表情の無い顔で、私に質問を投げかけました。
「君は昨日、店主のルネと名乗ったね」
「はい」
エリオット様はひどく深刻そうな顔をして、私に問い掛けました。
「どうしてその名を名乗った?」




