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裏方聖女は逃げ出した!~ブラック職場やめます!お洒落なカフェハウスの店長になったので、今更戻れと言われてももう遅い!  作者: 柚屋志宇
第3章 約束とカフェハウス

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52話 ホバートとの会話

「ロビニア横丁の薬屋は、随分と有名になったようだね」


 その日。

 スタイン公爵令息ホバート様が、予約しているポーションを受け取りに来ました。


 公爵家のご令息なら、普通は買い物は使用人に任せるそうですが。

 ホバート様は毎回、自らポーションを買いにやって来ます。


 それを何度も重ねるうちに、私たちもホバート様に慣れて、ざっくばらんにおしゃべりをするようになりました。


「この店に来れば上級ポーションが買えると、貴族たちの間でも話題になっているようだ」

「ホバート様がくださった看板のおかげです」

「君の実力だよ。さすがは私の妹だ」

「ありがとうございます」


(妹ではないけれど……)


 ホバート様は私のことを妹分として取り立ててくださっています。


「妹よ、兄がお茶菓子を持って来たよ」


 ホバート様がパチンと指を鳴らして合図をすると、後ろに控えていたホバート様の従者がバスケットを恭しく差し出しました。

 バスケットからは甘い香りがします。


「さあ、お茶にしようではないか」


 ホバート様はそう言うと、いつものように薬屋の工房に入りました。


 スタイン公爵家のご令息ホバート様は超のつくお得意様で、後ろ盾にもなってくださっているので、工房にも出入り自由です。


「壮観だ。これほど美しい風景は無い」


 ホバート様は工房に入ると、私が作った上級ポーションが入った薬瓶が並べられている棚を、いつものようにうっとりとした表情で鑑賞なさいました。


「この深い緑色。まるで宝石の森だ」


 最近のホバート様は……。

 薬屋に来ると工房に入り、まずポーションの棚を鑑賞します。

 タイミングが合えば、私の製薬を見学なさいます。

 その間にニーナがお茶の用意をします。

 ニーナがお茶とホバート様が持って来てくださったお茶菓子とを運んでくると、ホバート様は私とお茶をします。

 そしてお茶を飲み終わると、ホバート様は予約したポーションを受け取ってお帰りになります。


「ホバート様、お茶をどうぞ」


 その日もいつものように、ニーナがお茶と、ホバート様が持って来てくださったお茶菓子を運んで来ました。

 今日のお茶菓子は、乾燥果実が入った焼き菓子です。


「ご厚意痛み入る」

「どういたしまして。はい、こっちはアリーの分」


 私はニーナが煎れてくれた香草茶を飲みながら、いつものようにホバート様とおしゃべりをしました。

 ホバート様は私に、世間の出来事や噂話などを教えてくれます。


「そうそう、筆頭聖女セラフィナは地位を返上したそうだよ」

「セラフィナ様が?!」

「過労のため、体調不良が続いていたので本格的に療養をするとのことでね」


(セラフィナ様が……過労?)


 聖女のお仕事をせずに、夜会やサロンにばかり行っていたあのセラフィナ様が、過労とは……。

 さすがにちょっと呆れてしまいました。


(セラフィナ様は、夜会に行きすぎて疲れたのかな)


「君がいなくなったせいだろう?」


 ホバート様は訳知り顔でニヤリと笑いました。


「筆頭聖女セラフィナは急に力が衰えて、神器が使い物にならなくなったらしい。君が神殿を出てからだ」


「ええと……」


 私は目を逸らしましたが、ホバート様は得意気に言いました。


「私には解っている。ポーションは嘘を吐かないからな」


(私がセラフィナ様の裏方だったことまでバレている……。フィリップ王子殿下は、私がお手伝いしたって言っても信じてくれなかったのに。ホバート様はポーションの味見をしただけでどうして解るんだろう)


 ホバート様のポーションの味見の能力は、全く得体が知れなくて、少し怖いような気もします。


(あれ? でもセラフィナ様が聖女をやめたなら……。私はもうセラフィナ様に必要ないよね)


 私は聖女セラフィナ様の裏方として、神器に光魔法を充填する聖女の仕事を代行していました。

 でもセラフィナ様が聖女でなくなったなら、私の光魔法も必要ないはずです。


「ホバート様、セラフィナ様が聖女をやめたということは、バンクス公爵家はもう私を探していないのでしょうか?」


 私は追手から身を隠すために、アリーという偽名を名乗っています。

 でも偽名では、ジルさんにも見つけてもらい難くなります。


 追手がいないなら、私は本名のルネを名乗りたいです。


「探しているだろうよ」

「どうしてですか?」


 ホバート様はポーションの味見により全て知っているようでしたので、その前提で尋ねました。


「セラフィナ様が聖女をやめたなら、もう私のお手伝いは必要ないはずです。私を探す必要も無いのではありませんか?」


「光魔法使いの使い道は、聖女の裏方作業だけではない。現に君は今、薬師として至高のポーションを作っている。そして多くの者がそれを買い求めている」


「でも貴族は、薬屋はやらないですよね?」

「光魔法使いの中でも、特に魔力が強い者は、癒しの魔術で治療をすることもできる。その才能は色々な使い道がある」

「癒しの魔術が使えると、魔力が強いんですか?」

「うむ。癒しの魔術が使えれば、聖女クラスの使い手だ」


(じゃあセラフィナ様も、魔力は強かったんだ)


 薬草園の貴族の巫女たちも世間では使える部類だと、ジルさんが言っていました。

 セラフィナ様も、世間では魔力が強い部類だったようです。


「バンクス公爵も、薬草園の巫女たちも、君の実力を知っているから、君を囲いたいのだろう」


(神殿でそうだったように、皆様は私を奴隷として使いたいのね)


 私はげんなりしました。


 そして、ふと、疑問に思いました。

 ホバート様はどうして私を捕まえないのでしょう。

 貴族の中で一番爵位が高い公爵家のご令息なのに。


「ホバート様はどうして私を捕まえて奴隷にしないんですか?」


 大分ホバート様に慣れていた私は、あけすけな質問をしました。


「妹よ、それは犯罪だ」


 ホバート様は真顔で答えました。


「私は犯罪はしない。する必要がないからな。私は財産も権力も持っている。小狡い犯罪などしなくても、欲しいものを手に入れることができるのだよ」


 ホバート様は悠然とした態度で語りました。


「至高のポーションすら、こうして予約して定期購入することができるのだ。奇跡の製薬を間近で見学することもできる。援助を惜しまなければ、犯罪などする必要がない。そしていくらでも援助できる財産と権力が、我がスタイン公爵家にはあるのだ」


(やっぱりスタイン公爵家って凄いんだわ)


 ホバート様とのおしゃべりで、私は世間の色々なことを学びました。


 私が私として、カフェハウスを経営するための大きなヒントをくれたのもホバート様でした。


 この日のホバート様との会話で、私は大きなヒントを得ることになりました。

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― 新着の感想 ―
ポ様の株が上がり何もしてないのにスカポンタン王子の株が下がる…王子も元気かな? あれ? どこに何のヒントが??
ホバート様マジカッコよ… 強過ぎる。 もうこの人ヒーローで良いと思う… お兄様だけど笑 そして、どんどんヒーロー?の影が薄く…
ちょっと傲慢ぽっそうだけど、話が通じるまともな貴族。
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