51話 二人の上客
私が精力的に上級ポーションを作り始めて、しばらく経った頃。
上客が現れました。
「上級ポーションを、とりあえず三十本ほど頼む」
第二騎士団のエリオット様が、ダレス様を伴って来店しました。
彼らは前回は調査のためにいらっしゃいましたが、今回はお買い物でした。
「三十本は……お時間をいただくことになります。薬師とも相談しませんと……」
応対したローナさんはエリオット様にそう言い、私を呼びました。
◆
「三十本なら、明日には用意できます」
上級ポーションを作っている薬師である私が、エリオット様と直接お話をすることになりました。
エリオット様は銀髪碧眼の美貌の騎士様です。
私には眩しすぎてドキドキします。
美しすぎて心臓に悪いです。
「明日以降に来ていただければ、お渡しできます」
私は内心で動揺しながら、表向きは平静を装って答えました。
「今後も定期的に購入したい」
「今後もですか?」
「引き受けてもらえるとありがたい」
「あの、でも……」
神殿のポーションは、騎士団には優先的に送られているはずです。
私は疑問に思ったことを尋ねました。
「騎士団には、神殿のポーションがあるのでは?」
「それが、無くなってしまってね……」
エリオット様は残念そうな顔をして、小さく肩をすぼめました。
ダレス様はエリオット様の後ろで苦笑しています。
「神殿のポーションは、辺境で戦っている第一騎士団と第一魔法士団に優先的に送られているんだ。その次に魔獣被害の多い地域の兵団に送られている」
エリオット様は内情を語りました。
「王都警備の第二騎士団の優先順位は一番低いんだよ。それで……今年はポーションの数が足りていないから、第二騎士団には回って来なくなってしまった……」
「そ、そうなんですね……」
神殿のポーションの生産量が減った理由が、自分にあることを知っていたので。
私はほんの少しだけ後ろめたい気持ちになりました。
「解りました。必要な数をおっしゃってください。お作りいたします」
「今後もずっと頼みたい。定期契約はできるだろうか?」
「今後もですか? 来年も?」
ポーション不足は今年だけだとニーナが予想しています。
「ポーション不足の時期が終われば、第二騎士団にも神殿のポーションが回ってくるのではありませんか?」
私がそう言うと、エリオット様は難しい顔をしました。
「魔獣被害が増えているときは、王都周辺の街道にも魔獣が出る。それなのに魔獣被害が増えたタイミングで、ポーション不足になって供給が止まるのは非常に困る。だからポーションは、魔獣被害が多いときでも安定した供給ができるところに頼みたい」
エリオット様は眉を下げると小さく笑いました。
「第二騎士団の予算から、神殿に寄付をするのはもう止めるつもりだ。安定して上級ポーションを供給してくれる薬屋と契約したい」
エリオット様がそう言う隣で、ダレス様が茶々を入れました。
「そうそう。寄付金を納めたのに、今回はポーションありませんって言われたらね。二度と取引したくなくなる」
それは……?
神殿にお金だけとられたってことでしょうか?
「寄付金を納めたのにポーションが与えられなかったのですか?」
私が質問すると、ダレス様が皮肉っぽく微笑みながら答えました。
「神殿には毎月、決まった日に決まった額を寄付していたから、今月も決まった日に決まった額を寄付したんだよ。でも今月はポーションが届かなかった」
「寄付金を返してもらえないのですか?」
「寄付金は商品の代金じゃないから返してもらえないよ。善意の寄付だからね」
「……」
なんだか、詐欺みたいな話です。
「いつもの習慣で寄付するんじゃなくて、神殿のポーションの在庫を確認してから寄付をするべきだったよ。すっかり騙された」
ダレス様はお道化るようにして肩をすぼめました。
「まあ、そういうわけだ……」
エリオット様は少しばつが悪そうにして言いました。
「ポーションの安定した供給を確保したい。契約してもらえると助かる」
「はい。お引き受けします」
「ありがたい」
第二騎士団は、毎月ポーションの定期購入を予約してくれました。
場合によっては、臨時に追加注文することもあるとのことです。
◆
「ニーナ、聞いて。騎士様がね……」
エリオット様との商談を終えた私は、このことを早速ニーナに話しました。
ニーナは商談の成立を喜んでくれて、そして少し悪い顔で笑いました。
「アリー、やったわね。神殿の顧客を奪ってやったわ。騎士団は上客よ!」
◆
さらに、その後。
「君、魔法塔の薬草園で働いてみないか」
宮廷魔術師のリロイ様が、また私をスカウトにいらっしゃいました。
魔法塔というのは王立魔法研究所の通称です。
そこは我が国の最高峰の魔術師たちが集う塔です。
「聞いたよ。第二騎士団にポーションを納入する話」
(エリオット様かダレス様から聞いたのかな)
エリオット様たちに依頼されて、私の上級ポーションを解析したのはリロイ様だと聞きました。
リロイ様ご本人の口から。
(リロイ様は騎士団と仲良しなのかな。騎士団とリロイ様は、完全に繋がっているよね?)
「魔法塔にも薬草園があるんだ。魔法塔の薬草園で働いてみないか? 君なら大歓迎だ」
薬草園、という言葉には、私には悪い印象がありすぎます……。
神殿の薬草園でこき使われ、私が空気を悪くしていると非難され、あれやこれや……。
「いいえ、行きません」
私は即座に断りましたが、リロイ様は笑顔で勧誘を続けました。
「魔法塔で働けば、官位が得られるのだよ? 官位を得れば将来安泰だ。それに平民にとって、王宮に出入りできる官位はとても名誉なことだろう?」
「官位って地位みたいなものですか?」
「地位みたいなものではなく、地位だ。王宮での地位のことだ」
王宮での地位……。
でも……。
巫女も、神殿での地位でした。
巫女という地位があった私は、奴隷でした……。
「地位には興味ありません」
私は虚無の顔で答えました。
「残念だよ。ではポーションを二十本ほど頼めるかな」
(あ、買ってくれるんだ?)
「はい。お渡しできるのは明日になりますがよろしいでしょうか」
「かまわん。それから定期購入もしたい」
(あれ? 普通にお客さんなの?)
◆
「魔法士団も、魔獣退治で駆り出されているからね。それで今、魔法塔でもポーションが必要なんだと思う」
宮廷魔術師リロイ様に勧誘された一件を、私はニーナに話しました。
ニーナは腕組みをして難しい顔をすると推理を語りました。
「魔法塔の薬草園は、実験用だか何だかで、ポーションを生産するための畑じゃないんだよ。でも今はポーションが足りてないから、魔法塔でもポーションを作っているのかもね」




