50話 稼ぎ時
「順調に背が伸びてるね。先月より伸びてるよ……」
ニーナは私の身長を計ってそう言うと、考えるような顔をしました。
「ニーナ、どうしたの?」
「うん……。アリー、体の調子はどう?」
「調子良いよ」
「製薬の仕事を増やせそう?」
「全然大丈夫。もっと出来るよ」
私がそう答えると、ニーナは再び難しい顔をして考え込みましたが、やがて顔を上げると言いました。
「ポーション飢饉の今が、稼ぎ時だと思うんだ」
「私もそう思う!」
「今がバブルの頂点だよ。直にこんなには売れなくなる」
「そうなの?」
私が問いかけると、ニーナはしかつめらしい顔で説明を始めました。
「今は、急に神殿のポーションの生産量が減ったから混乱しているんだよ。突然、供給がなくなったから、みんな対応できていないだけ。でも時間が経てばみんな対応を始める。大きい商会はもう薬師を大勢雇い始めているよ」
「他にも上級ポーションを作れる薬師がいるの?」
私が作る上級ポーションは珍しい品だと言われていたので、意外でした。
でもニーナの答えは、私の予想外のものでした。
「上級ポーションは大量の魔力があれば作れる。薬師が数人がかりでやれば作れるんだよ。それをやると薬師を雇う人件費が割高になるから、小さい薬屋でそれをやっている店はないけど。需要があって高く売れるなら、大きい商会は体制を整えて量産を始めると思う。神殿だって巫女を増やして、もっとポーションの生産量を上げるかもしれない」
私はニーナの分析に感心しました。
慧眼のニーナはさらに未来を語りました。
「今年は魔獣被害がすごく増えているから、上級ポーションの需要が高いのよ。でもこの先もずっと魔獣被害が多いとは限らない。魔獣をたくさん駆除したら、そのうち被害は減っていくと思う。だから……」
ニーナは私を見据えて言いました。
「稼ぎたいなら、今が稼ぎ時なんだよ。他の薬屋がまだ体制を整えていない今しかない。アリーの体の負担じゃなければ、今できるだけ製薬しまくったほうが良い。この先こんなチャンスは無いかもしれないから」
「ニーナ、私、やるよ。早くお店を持ちたいから、たくさん稼ぎたい」
「でも無理は駄目だよ。体を壊したら元も子もないからね」
「無理じゃないよ。もっとやれるよ」
「本当に大丈夫?」
「うん」
私が頷くと、ニーナも頷きました。
「じゃあ一緒にお婆ちゃんに頼んでみよう」
◆
「ローナさん、私はもっと製薬できます。もっと作らせてください」
私はローナさんにお願いをしました。
ニーナも私に加勢してくれました。
「お婆ちゃん、今が稼ぎ時だよね。アリーは先月より背も伸びているし大丈夫だよ。もっと上級ポーションを作ってもらおうよ」
今、上級ポーションは飛ぶように売れていました。
注文が多いので予約制ですが、予約もどんどん増えています。
この店で売っている上級ポーションの評判が広まっているのか、上級ポーションを買いに来るお客さんは日に日に増えていました。
貴族の使い走り風のお客さんもちらほら来ています。
ホバート様がくださった『スタイン公爵家御用達』の看板の効果もあるのかもしれません。
「ローナさん、私は一日十回だって製薬できます」
私がそう言うと、ローナさんは呆れたような顔をしました。
「それはやりすぎだよ」
「神殿にいたころは毎日もっと魔力を使っていました」
「それで魔力欠乏になったんだろう? 同じ間違いを起こす気かい?」
「製薬は全然疲れないから大丈夫です」
私はローナさんとしばし押し問答をしました。
「お婆ちゃん、アリーはもっとやれるよ」
ニーナも私を援護してくれました。
「私がアリーの調子をちゃんと見ていて、無理をしているようだったらすぐに止めさせるから」
「そうだねえ……」
ローナさんは確認するように私を見ると言いました。
「解った。体の調子を見ながらやるんだよ。疲れたらすぐ中止すると約束できるかい?」
「はい!」
◆
私は更に上級ポーションの生産数を増やしました。
「出来た!」
私はその日、五回の製薬をしました。
「凄いよ、アリー。今日はもう金貨三十枚は稼いでるよ」
「山分けだから十五枚だよ」
「これなら冬になる前に、カフェのお店がやれるかもしれない」
ニーナは勝利を確信したような顔で言いました。
「うちの薬屋も大儲けだから、薬師をもう一人雇えるわ」
「え? 薬師を増やすの?」
私が質問すると、ニーナは当然だとでも言うように頷きました。
「だってアリーがお店を始めて、私もアリーのお店を手伝ったら、お婆ちゃんの手伝いがいなくなっちゃうでしょう。だから手伝いの薬師を雇わなきゃ」
「そっか……。私の我儘で迷惑かけちゃうね……」
「全然迷惑じゃないよ」
ニーナは嬉々として言いました。
「アリーのおかげでうちも大儲けだから。薬師の一人や二人、余裕で雇えるよ」
「そう?」
「薬師の一カ月の給金は最低で金貨一枚。よほど腕が良ければ金貨三枚くらいかな。今のうちの売り上げなら余裕だよ」
ニーナはそう言うと、少し皮肉っぽく笑いました。
「アリーの一カ月の給金は、金貨一枚でしょう。どんだけ安いのよ」
「でも上級ポーションの売り上げは山分けだから、私も稼いでるよ」
「当然よ。アリーは毎日、金貨をざくざく稼いでいるんだから。……そろそろ物件を探し初めても良いかもね」
「物件?」
私が問い返すと、ニーナは野望に瞳を輝かせました。
「貸しに出している建物を探すのよ。お店が出来るような建物。この調子なら、すぐにお店を持てるよ!」
「……!」
知恵者で慧眼なニーナがそう言うなら、きっとそうなるに違いありません。
明るい未来を確信して、私の心は浮き立ちました。
(カフェのお店ができる!)




