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裏方聖女は逃げ出した!~ブラック職場やめます!お洒落なカフェハウスの店長になったので、今更戻れと言われてももう遅い!  作者: 柚屋志宇
第3章 約束とカフェハウス

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49話 商売のチャンス

 私が作った上級ポーションの売れ行きがどんどん伸びていました。


「上級ポーションを頼む」

「上級ポーションは予約制になっております」

「では予約しよう」

「お渡しできるのは一週間後になりますが、よろしいでしょうか」

「そんなに待つのか?! 何とかすぐに融通してもらえないかね」


 今日も薬屋では、ローナさんがお客さんとそんなやり取りをしていました。


 上級ポーションを求めるお客さんが増えたのですが。

 私は一日一回、鍋一杯分しか上級ポーションを製薬していないので、一日に生産できる上級ポーションは薬瓶六本分だけです。

 そのため上級ポーションはすぐに品切れになり、最近では予約制にしているのです。


「この間、薬師ギルドに行ったときに聞いたんだけど。神殿が作るポーションの数が全然足りてないみたい」


 工房で仕事をしながら、ニーナが噂話を教えてくれました。


「魔獣被害が増えているから、神殿のポーションは騎士団や魔法士団に優先的に送られているんだって。それで市井に配る分がなくなったらしいよ」


(魔獣被害……)


 私はまだその当時、セラフィナ様が筆頭聖女の地位を返上して神殿を去ったことを知りませんでした。

 神殿や王宮の情報が市井に流れてくるのは、貴族たちの間で噂になった後なのです。


(セラフィナ様は、神器に光魔法を充填するお仕事をちゃんとやっているのかな。バンクス公爵が私を探していたってことは、セラフィナ様は私にお手伝いをさせたいってことだよね)


「今まで神殿でポーションを貰っていた人たちが、ポーションを貰えなくなって、街の薬屋で買うようになったから。それで薬屋はどこも売り上げが伸びているらしいよ」

「そうなんだ……」


 ちなみに。

 神殿は、女神様の恩恵であるロゼラス草から作られたポーションを、敬虔な信者たちに無償で与えています。

 しかしその代わり、信者たちは寄付金を神殿に納めます。

 敬虔な信者として神殿に寄付金を納めないと、ポーションを与えて貰えないので、実態は売買取り引きです。


 私は市井で社会勉強をして、神殿がポーションで商売をしていたことを知りました。


 神殿にいたころの私は、神殿は善意で人々にポーションを配っていて、人々は善意で神殿に寄付をしていると思っていました。

 ですが、繋げて考えればただのポーション売買でした。


 そして私は神殿で、純粋な善意で皆のためにポーションを作っていましたが。

 ジルさんが言っていたとおり、私は『ただ働き』の奴隷で、私が善意で無償で製薬したポーションを売って神殿は儲けていたのです。


 貴族の巫女たちは奉仕する代わりに名誉を得ていましたが、平民の巫女はただ働きの奴隷でした。

 平民の巫女の入れ替わりが激しかったのも、そのあたりに原因があったのかもしれません。

 ジルさんのように内緒で給金を貰っていなければ、ただの奴隷ですから。


(私が神殿を出たから、私が薬草園でお手伝いをして増やしていた分の薬草が枯れたんだわ。薬草の収穫量が減ったから、作れるポーションも減ったのね)


 三年前、私が貴族の巫女たちの畑のお手伝いを始めると、彼女たちの畑は収穫量が倍増しました。

 ですが私は神殿を出たので、彼女たちの畑の収穫量は、私がお手伝いする以前の状態に戻ったことでしょう。


(今年は猛暑で薬草が枯れやすかったから、元の収穫量より更に減ったのかも?)


「神殿が生産するポーションが急に激減して、ポーションが手に入らなくなったから、ポーション飢饉って言われてちょっとした騒動になっているみたい」

「そ、そうなんだ……?」


(原因は私だよね……。私がお手伝いを全部投げ出して、神殿を出たから……)


 神殿で急にポーションの生産量が減った理由を知っている私は、世の中を騒がせてしまっていることに罪悪感を感じてドキドキしました。


(私が逃げ出したから、みんなを困らせてしまった……)


 ポーションが減ったことで困っている人たちがいるのに。

 私はここで、仕事の量を制限して、のうのうと健康に暮らしていることに胸がチクリと痛みました。


 ですが……。


 ――本当に? よぉく考えて?


 ジルさんに言われたことを思い出しました。

 迷ったときに、ジルさんに言われたことを心の中で反芻することがクセになっています。


(皆の役に立てるように働くことは良いことで、困っている人を助けることは当然だと思っていたけれど……)


 そんな私にジルさんは言いました。


 ――あなたは仕事の成果をすべてかすめ取られて、大損してるのに、何故か喜んでいる。

 ――あなたがやっていることは、盗みに来た泥棒に優しくして、泥棒にホイホイお金を差し出しているようなものよ。


(……そうだわ。私は悪くないわ)


 よぉく考えてみたら、私は全然悪くありません。


(泥棒たちが、今まで盗んでいたものを、盗めなくなっただけだったわ)


 私がやったことは。

 泥棒である彼女たちに優しくすることを止めて、ちゃんと戸締りをしただけでした。


(無理な仕事はやらなくて良いことなんだから。仕方ないのよ)


 それは薬草園の巫女たちが自分で言っていたことです。

 彼女たちが、私の畑の薬草を枯らしたときに言っていました。

 自分のことで大変だったから、仕方ないと。


(自分の畑が枯れた責任は自分のせいなんだから、あの人たちの畑が枯れたのはあの人たちのせいだわ)


 神官長も言っていました。

 畑の責任は、その畑の担当者にあると。

 だから彼女たちの畑が枯れて、収穫量が激減したのは彼女たちの責任です。

 ポーション不足で世の中が混乱しているのも彼女たちのせいです。


(私は泥棒されないように、戸締りをしただけなんだから)


 よくよく考えてみれば、私には後ろめたいことなどありません。


(そうだわ……!)


 そして気付きました。


(戸締りをした分の仕事を、売れば、稼げるよね。足りなくなっているのは神殿のポーションだから、その代わりになる上級ポーションが売れているんだよね)


 私には、カフェ豆茶を出す茶房を開店するという新しい目標があります。

 そのためにはとにかくお金を稼ぐ必要があります。


(私がもっと上級ポーションを作れば、世の中のポーション不足も助けられるかも。私はお金が稼げるし、良いことづくしじゃないかしら?)



 ◆



「ローナさん、上級ポーションの製薬をもっとやらせてもらえませんか」


 私はローナさんにお願いしました。


「背もちゃんと伸びています。製薬しても疲れません。もっとやれます」


 神殿にいたころの仕事量に比べたら、この薬屋での一日一回の製薬は、休憩時間のようなものです。

 私はもっと働けます。


 セラフィナ様のお手伝いで、神器に注いでいた光魔法の量は、上級ポーションの製薬なんか比較にならないほど多かったです。


「そうだねえ……」


 ローナさんは私を上から下まで見て、考えを口に出すようにして言いました。


「じゃあ試しに、一日二回にしてみようか?」

「はい!」


(これでもっとお金が稼げるわ!)

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