108話 最強の力の代償
「ただいま戻りました」
「お婆ちゃん、ただいまぁ」
私とニーナは、ホバート様に馬車で送ってもらいました。
「ニーナ! ルネ!」
「無事だったのね! 良かった!」
ローナさんとポリーさんが、私たちを出迎えてくれました。
(私とニーナが事件に巻き込まれたこと、知っているんだ)
心配そうな顔をしている二人を見て、私は察しました。
「ルネとニーナはたしかに送り届けた」
ホバート様が威風堂々とそう言うと、ローナさんがお礼を述べました。
「スタイン小公爵、ありがとうございました」
「なに、大したことではない。いつでも、この私を頼ってくれたまえ」
「ホバート様、ありがとうございました」
「送っていただいて助かりました」
私とニーナもホバート様にお礼を言いました。
ホバート様は自信満々に答えました。
「兄が妹の面倒を見るのは当然のことだ。今日はゆっくり休みたまえ。明日また様子を見に来る」
◆
私とニーナは、少し遅い夕食にありつきました。
「物騒な世の中になったもんだ」
食事をしながら私とニーナが経緯を説明すると、ローナさんは難しい顔をしました。
「やっぱり貴族に目を付けられたんだろうね。犯人がはっきりするまでは、しばらくは休業したほうが良いよ」
「大丈夫だよ、お婆ちゃん。こっちにはアレキサンドライト様がいるんだから」
眉間にしわを寄せているローナさんに、ニーナは得意気に言いました。
「アレキサンドライト様は王都最強だもの!」
「狙われてるのはルネだと思うけどね」
「飛んで火に入る夏の虫ってやつ」
ローナさんとニーナは軽い言い合いを始めました。
その会話を聞きながら、同じテーブルの席についてお茶を飲んでいたポリーさんは独り言のようにしみじみと呟きました。
「まさかルネが、噂の闇の神官アレキサンドライト・カルメンシータだったなんて、驚いたわ……」
「そのことは、出来れば内緒にしておいて欲しいです」
私はポリーさんにお願いしました。
今日はゴーレム使いの男の子に『闇の神官』という不名誉な渾名で呼ばれました。
さらに『馬鹿力』と言われてしまいました。
闇の神官とか、馬鹿力とか、言われて嬉しい言葉ではありません。
言われたくないです……。
「みんなに変な目で見られたくないので……」
「解ったわ。内緒にしておく」
「ありがとうございます」
「でも勿体なくないかしら。アレキサンドライト・カルメンシータだって名乗り出れば、スカウトがわんさか来るわよ。用心棒として雇いたがる貴族は居ると思うわ。魔法士になって魔法士団に入団すれば、最強魔法士として大出世できるかもしれない。そしたら英雄よ!」
ポリーさんのその言葉に、ニーナが振り向きました。
「アレキサンドライト様が英雄に! 素敵!」
「闇の神官アレキサンドライト・カルメンシータなら間違いなく大出世よ」
盛り上がりはじめたニーナとポリーさんに私は言いました。
「私はカフェハウスの仕事がしたいので、魔法士にはなりません」
「そっかぁ。まあ、そうよね。魔法士になって辺境で戦うより、王都で茶房をやっているほうが幸せになれるよね。それに光魔法はもともと戦える魔法じゃないものね」
(ん?)
戦いを仕事にする気はありませんが、光魔法が戦えないと聞いて私は首を傾げました。
「光魔法は戦えますよ。戦いに使う神器に充填している魔法ですから」
私がそう言うと、ポリーさんは呆れたような顔をして半目で私を見ました。
「神器に充填される光魔法は、補助魔法でしょう。光魔法は補助をするだけで直接の攻撃手段にはならないのよ」
「直接ぶつければ攻撃が出来るって、私はジルさんに教わりましたけど……。みんなが出来るんじゃないんですか?」
「ジルさんは出来る人だったからねぇ……。それ多分、魔力量が多いジルさんだけの特別な使い方よ。ルネはダントツの天才だったから、ジルさんはルネも自分と同じことが出来るって思って教えたんじゃないかな。……光魔法でも、魔力量が多ければ戦えるってことなのかしら。戦う魔法じゃないのに……」
「普通は戦えないんですか?」
「そうよ。だって光魔法は本人の回復力や成長の補助をする魔法でしょ」
ポリーさんは熱弁しました。
「高等魔術の強化や癒しだって生命力や体力を増幅させる補助魔法よ。結界だって身を守る盾であって攻撃魔法じゃないわ。四大属性の地水火風の魔法と違って、光は攻撃が出来ないのよ」
「出来ましたけど」
「それは普通じゃないから……。結界をぶつけて土魔法のゴーレムと戦うなんて、普通の光魔法使いには出来ないわよ。結界って、その場の保全だから、その場に固定で動かせないものでしょう。鎧みたいに纏うなんて聞いたことがないわ」
「いつも食品を保存する要領で出来ましたけど」
「普通は出来ないの! 普通は光魔法で食品の保存もしないの!」
ポリーさんは半ば叫ぶようにそう主張すると、ふっと真顔になり言いました。
「ねえ、ルネ、私にも結界魔術を教えてもらえる? 私も食品の保存が出来るようになりたいわ」
ポリーさんは一時期は聖女を目指していただけあって、魔力量は多い人です。
「はい。私で良ければ。いつでも教えます」
「ありがとう!」
「カフェハウスの窓の修理が終わるまでは、茶房の仕事はお休みなので、明日から時間があります」
「じゃあ明日から教えてもらえるかしら」
「はい」
私は快諾しました。
でも翌日、私はポリーさんに結界魔術を教えることは出来ませんでした。
◆
「……!」
翌朝、目が覚めて、ベッドから起き上がろうとした私は。
体の節々に走った痛みに動きを止めました。
「か、体が痛い……!」
それは強化の魔術の副作用でした。
身体強化の魔術は、一時的に身体能力を引き上げますが、体に負担がかかるのです。
体を動かそうとすると、筋肉に、関節に、痛みが走りました。
「アイタタタ……」
屋根の上に飛び上がったり、飛び降りたり、馬車の速度で走ったり、ゴーレムに体当たりしたり、地下牢の壁を壊したり。
私は、体が痛くなる原因に心当たりがありました。
(あれだけ動いたんだものね……。仕方ないよね……)




